小説〜辿り着いたは精神病院?

資産家のお嬢様で良家の奥様。仕事良い夫、多くを持てる彼女は死の願望に取り憑かれていた。前を向き強く生きていた瞳はもう暗闇しか映さない。警告:小説と現実の区別がつかない人は絶対読まないで下さい。

シーン6-3 "グラスオブハウス"


*警告*このブログには自殺、流血、薬物、飲酒、精神病治療のシーンが含まれます。自己の責任で対処できる方、小説と現実の区別がつく方のみ閲覧して下さい










黒曜の奥さん、紗香さんに会ったのは三年振りだった。唐突に鳴らされたインターホンに私は居留守を決め込んだ。それでも気になり玄関モニターを覗くと、そこには固い表情をした義妹の姿があった。

「留璃子姉さん。元気そうですね」紗香さんは言うと紅茶を一口飲んだ。
彼女は大きな数字入りのTシャツにレースのティアードスカートというちぐはぐな格好をしていた。シニオンに結った髪はあちこちバラバラとほつれ乱れている。
「ありがとう。心配かけてごめんね」
「黒曜が、黒曜は. . . レオが産まれたのに、黒曜は戻って来ないんです!」紗香さんの口調は切羽詰まっていた。「病院に顔を見せたの一度だけなんですよ!退院の時だって、私の実家まで送っただけで、直ぐに出て行っちゃて. . . 」
「紗香さん、ずっとご実家に居るの?」
「はい。あの大きな家に居たって. . . 黒曜は戻って来ないし。子供、三人も抱えて独りじゃ. . .

紗香さんと黒曜とは同級生で結婚したのは八年前、二十六の時だった。市内のホテルで華やかに執り行われた結婚式で、紗香さんとてもきらびやかだった。アルバムのどの式写真を見ても彼女は美しく幸せな表情をしていた。しかし、目の前に居る紗香さんはクマのできた暗い眼差しで、三十四才の年齢より老けて見えた。
「マヤちゃんとマオちゃんの学校はどうしてるの?」私は叔母として一番気になっていた質問をした。
「実家の学区の小学校に通わせてます. . . 両親もそうしろって」
「黒曜とは、話し合ったの?」
黒曜は今、琥珀と同じマンションに入居しているはずだ。市内では最高級に分類されるDNKSや優雅な独身生活を楽しむ人間をターゲットに絞った賃貸物件だ。中区というロケーションも仕事や遊びに最適なため、高額な家賃にも関わらず問い合わせが絶える事はないと聞いていた。
「お前となんて話すこと無いって。逃げるんです。今は携帯にも出ないし、会社に電話したって居留守使われて. . . 私、従業員にさえ馬鹿にされてますよ、きっと」
「紗香さん。馬鹿になんて. . . 」
「留璃子姉さんには解らないんです!私は留璃子ネエさんみたいにお嬢様じゃないしぃ. . . !」激高した語尾は震えていた。「黒曜が帰って来ないこと、みんな知ってて噂してるんですよね。私、私. . . お義父さんに、お前の我慢が足りないセイだって言われました」
「パパが?」
「黒曜のは、男の甲斐性だ。女がグズグズ言うことじゃないって. . . 黒曜が帰って来たくないって思うのは、私のセイなんだって」
それをパパがどんな口調で言うか、私は知っている。夫が帰らず、義父から詰め寄られ、彼女はどれだけ苦しんだのだろう?
「ひどい言い方。ごめんなさいね、紗香さん」
「お義父さんは、結婚する前から私のことを気に入らないです!」
「そんなことないよ。あの人は誰に対しても、あんな態度で. . . 」
「いいえ、私のこと、気に入らない嫁っておもってます!それに黒曜だって、留璃子ネエさんの料理はもっと美味しいとか、片付けが奇麗だったとか、しょっちゅう言ってるし. . . 」
「ええ?黒曜が?」私は心底驚いた。
「留璃子姉さんに物の置き場を訊ねたら"二階の南向き和室のクローゼット脇の引き出し一番上の右側の黄色いファイルにはさんである"ってカンジの答えがちゃんと返って来るって. . . なのにお前はまともに片付けもできないだろ?って」紗香さんはギュっとハンカチを握ると、上目使いに私を強い瞳で見つめた。「. . . 実際、私には、答えらないから」

私は大いに戸惑った。黒曜が私を褒める言葉なんて?今まで聞いたことが無い。何より、人と人を較べてアレコレ言うなんて最低だ. . . 。
「紗香さん。私は紗香さんみたいにシフォンケーキどころかお菓子の一つも作れないよ。黒曜の理屈で言えば、私も駄目人間ってことだ?人と人を比べるなんておかしいよ。黒曜は間違ってるよ」
彼女は私の言葉など耳に入らないようだ。ひたすら首を降り続ける。
「. . . 黒曜、女がいるん、です」義妹は唐突に話題を変えた。「外国人、らしい. . . です。一年前から一緒に暮らしてるんです!」
黒曜の浮気は二人がつき合っている頃からだった。何度、私が派手な喧嘩の仲裁をしたことやら。結婚後も女癖は治らず水商売の女性を派手に渡り歩いたらしい。しかし、どれも長続きせず決まった相手は居ないと聞いていた。
「え?紗香さん、どうしてそれを?」
「探偵を雇って調べさせました。. . . 留璃子姉さんの持ってる東区のマンションに一緒に住んでるって報告がありました」
「ええ?東区って、ステージヒルとかリバーステージとかの、あそこ?」
「プレステージヒル・イーストリバーです」紗香さんはマンション名をきっぱり言った。
そこは高倉不動産が所有管理する、地下鉄駅からほど近い東区の高級賃貸物件の一つだった。法人契約しか結ばず、用途は主に大企業の家族向け社宅だった。
「留璃子姉さん、ほんとに知らなかったんですか?」紗香さんは探るように私を見た。
「うん。全然知らなかった」
「追い出して下さい」
「え?」
「留璃子姉さんのマンションでしょ?黒曜とその女を追い出して下さい!」
「紗香さん、それは. . . 」
「留璃子姉さん、大家さんでしょ!黒曜の姉でしょ!!」叫び声は悲鳴となり私を打ちのめした。「外国人の女なんて金目当てに決まってる!留璃子ネエさん、なんとかしてぇぇ!!」


泣き叫ぶ紗香さんをなんとかなだめ、実家まで送った。紗香さんのご両親に会い、姉として話をするべきだったのだろうけれど、気力が出ずそのまま辞去してしまった。




頭は詰め込まれた情報を整理しようとするけれど、心がそれを拒んだ。灯りも付けず呆然とリビングに座り込んだ私を、帰宅した祐輔が見つけ大慌てした。どこも悪くはない、ただ自分の弟の家庭事情を知り驚いて力が抜けただけだと話すと、祐輔はホっと私を抱く手を緩めた。

「瑠璃。瑠璃、辛かったね」祐輔は優しく言った。
「え?辛いのは紗香さんだよ?」私は不思議に思い祐輔の顔を見た。
「けど、話し聞いて、瑠璃も辛かったでしょ?」
私が黙っていると、祐輔は優しく髪を撫でてくれた。
「瑠璃、瑠璃は黒曜君と話すつもり?瑠璃は病気なんだから無理しないで」
「. . . そうだね」
「今は、のんびりね?」
「ありがとう、祐輔」







拍手やコメント頂けたらものスゴクものスゴク嬉しいです!!!

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コメント

蛍さん、コメントありがとうございます!!
そうなんです、留璃子は自分のことで手一杯で人の悩みまで引き受けていい状態では無いのです。でも、弟のことだから放っておけない。で、首を突っ込んで自分自身に負担掛けちゃう. . . 。
祐輔はそのところをよく理解してます。のんびり屋でも長い付き合いです。
いつも読んでくださって、ありがとうございます!!!

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Author:kyorori
登場人物、治療内容、医療機関は全くのフィクションです。病院やお薬について、仮にも参考にできたらな?と訪れて下さった方には申し訳ありません。ゴメンナサイ。

葛藤や苦しみは限りなく本物で、この小説を自己発散の場として使っています。実話より小説の方がより表現しやすいと考えての行動で、もし少しでも理解して頂けたら幸いです。

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