小説〜辿り着いたは精神病院?

資産家のお嬢様で良家の奥様。仕事良い夫、多くを持てる彼女は死の願望に取り憑かれていた。前を向き強く生きていた瞳はもう暗闇しか映さない。警告:小説と現実の区別がつかない人は絶対読まないで下さい。

シーン6-2 "グラスオブハウス"


*警告*このブログには自殺、流血、薬物、飲酒、精神病治療のシーンが含まれます。自己の責任で対処できる方、小説と現実の区別がつく方のみ閲覧して下さい









あまりにもキレイに折れていたため、怪我は一ヶ月もでほぼ完治した。もともとが丈夫な上、ずっと運動を続けていたので『理想以上の回復をした』と医者に驚かれてしまった。


暴力を振るった女性を告発することはせずに、示談で解決をつけたらしい。女性は二度と私達の前に姿を現さなかった。そして、パパからはなんの説明も労りの言葉も無かった。

別れ話がもつれた挙げ句の暴挙。つまり痴情の果てってやつだ。しかも女性が狙ったのはパパご自慢の長男、琥珀だった。私と琥珀はいつもあの練習場で球を打っている。それを知っていたのだろう。
今年十六の琥珀は身長180センチ、十四の黒曜もちょうど180センチと兄に追いついたところだった。

ママは弁護士に聞きかじった内容に、怒り狂った。『私の息子が、琥珀が、殺されるところだった!』と執拗に、繰り返し喚いた。

琥珀は何も言わない。
黒曜も何も言わない。
金剛は泣くだけだった。

私達姉弟は以来、その事件を一言も口にしていなかった。


「るりちゃ. . .」夜中、金剛はまた私のベッドに潜り込んで来た。「ヒック、ヒッ. . . 」
「どーしたの、コン?怖い夢見た?」
私は冷えきった小さな体を毛布ごと抱きしめてやった。
「るりちゃ. . . が、いない. . . 」金剛はたどたどしく言った。
八歳になる末弟は、あれ以来たびたび幼児返りしてしまうことがあった。ちゃんと言えていた私の名前も、舌っ足らずの幼い頃の愛称に戻ってしうのだ。
「お姉ちゃんはねぇ、どこにも行かないよ」
「エッ、エ. . . ヒック. . . 」
「今日も、学校行からちゃんと帰って来て、コンと一緒にカレー食べたでしょ?真ん丸にんじん入ってたよね?」
「うん、まんまるにんじん」
「一緒にお風呂も入ったよね?」
「うん、るりちゃと、おふろはいった」
「コンの頭をサイヤ人にしたよね?」
「うん、オレ、サイヤ人になった」
「明日も一緒にご飯食べて、サイヤ人になろうね」
「うん、なる」
「お休みに映画行こう」
「ほんと?るりちゃ?」
「映画館じゃ、みんなコーラ飲むんだよ?」
「いや、コーラちくちくするもん」
背中をさすってやると、すうすうとした寝息が聞こえる。丸い頬から涙を拭ってやった。

幼い弟の心に傷を与えてしまった己が許せなかった。
ごめんね、コン。
ごめんね、黒曜。
ごめんね、琥珀。


祖父が亡くなり、自分の実家に家族と共に戻った母は、この頃からますます落ち着きを無くして行った。
私は高校三年生に進級し、取りあえず進学クラスに所属していた。クラス替え直後の進路相談に、渋るママを連れて行くのはとても大変だった。
「で、高倉さんは美大志望でよろしいですね?」ベテランの担任は穏やかに、ママに向って話を進めた。
ママは私の隣で曖昧を浮かべ、微かに頷いた。
「高倉は骨折大丈夫なのか?右腕なのに?ブランクできちゃうだろ?予備校ではなんて言われてるだ?」担任は私に向い、ざっくばらんに質問した。
「はい。もう腕は大丈夫です!もともとクロッキーは得意だし、このまま頑張ればなんとかなるんじゃないかと、判定してもらってます!!」
「ほう、すごいな高倉は。まだ春の段階で!」担任は相好を崩した。「けど、学科はもう少し頑張った方が良いなぁ?」
「ははは!はい!高倉、頑張ります!」運動部に所属している私の受け答えは、つい体育会系ぶなってしまう。
「今の志望校ならセンターは関係ないけど、地元の美大も受けるかもしれないだろ?理数も勉強しとかなくて平気か?」
「私、地元を受ける気ありません。実技の配点重視の大学のみを狙っ. . . . . . 」
「留璃子?. . . 何言ってるの?」突然ママが会話を遮った。
「え?センター試験は関係無いって. . . 」
「地元の大学を受けないってどういう意味なの?」
「ママ?私、何度も関東の美大に行きたいって話をしたでしょ?」
「東京に行くの?. . . 留璃子は、家を出て行くつもりだったのぉ?」
「お母さん、今日のところはざっとした掴みで、そろそろ終わりましょう」雲行きが怪しいのを察した担任が話を打ち切ろうとする。
「先生!娘が家を出ようってのに注意もしてくださらないんですか?」
「ママ!」
「留璃子は家を見捨てるつもりなの!」
私はママの体に手を回し、困惑している担任に頭を下げた。
「先生、スミマセン!家で充分話し合って来ます。失礼します!!」
「あ、ああ。高倉、お疲れ!」
小柄なママをなかば引き摺るように、廊下にでるとクラスメートの驚いた顔に出迎えられる。
「留璃子は、家を、家族を捨てるのね. . . 」さめざめと泣き出した。「捨てるの. . . ?」


私はその後、志望校を地元美大に変更した。ママに言われたからでは無い。
思う存分一流美大で学びたい気持ちは強かった。卒業後も関東に残り、出来れば出版か広告デザイン関係の仕事に就きたいとも考えていた。
だけど、末弟の金剛はまだ小学生でしょっちゅう熱を出した。パパに押し込められた柔道場も一ヶ月で辞めてしまい、顔を合わせると罵られ、私に助けを求めて来た。ママはますます暗く沈むようになり、まったく子供にも家庭内の出来事にも興味を示さなくなった。不器用だけれど誰よりも優しい性格の黒曜は、あの怪我から私と話をしなくなった。
長男の琥珀が高校生になった最近では、パパも昔のようには家族に暴力を向けることはなくなった。パパは琥珀に上手くあしらわれていた。なにしろ琥珀は大人並みの体格と黒帯を持ち、頭の回転は恐ろしい程早く、口が達者だ。その琥珀も本来持つ思いやりの深さを他人には決して見せず、世を斜めに見る冷めた態度を取るようになっていた。

パパはもう家族に手を出さない。だから私は外に出て行ける。自由に行きたい場所に行けば良い。
だから地元進学を選んだのは自分の意志なんだ。






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コメント

梶 恵 さん、コメントありがとうございます!!
娘って、母親の幸せや不幸を自分に投影するものらしいです。その点で、留璃子は『嘆きの母親』を見て育ってしまった運の悪い娘です。父親がこんななので、姉弟同士かがい合って生きていきましたから、絆は強いかもしれませんね。とくに留璃子は長女として弟達を守る気持ちがあったので、強さを発揮できたと思います。
主人公視点で物語を進めているので弟達の負った心の傷は計り知れませんけれど、色々感じるところはあったかな?思います。
いつも読んでくださって、ありがとうございます!!!

蛍さん、コメントありがとうございます!!
中学生や高校生なんて大人からみればスゴク子供ですよね。けれど超放任の親の下で育った本人達は大人なつもりで、傷ついた心を黙って抱えていたんだと思います。ましてや、末っ子の金剛はまだ小学生で、はは親かわりの姉が傷つけれられるシーンを見て、おねしょしちゃう
程のトラウマになってしまったのは可哀想ですね。
本当は、親って子供が傷ついたときに抱きしめてあげる存在のはずなんですけど?
いつも、読んでくださって本当にありがとうございます!!!

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Author:kyorori
登場人物、治療内容、医療機関は全くのフィクションです。病院やお薬について、仮にも参考にできたらな?と訪れて下さった方には申し訳ありません。ゴメンナサイ。

葛藤や苦しみは限りなく本物で、この小説を自己発散の場として使っています。実話より小説の方がより表現しやすいと考えての行動で、もし少しでも理解して頂けたら幸いです。

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