小説〜辿り着いたは精神病院?

資産家のお嬢様で良家の奥様。仕事良い夫、多くを持てる彼女は死の願望に取り憑かれていた。前を向き強く生きていた瞳はもう暗闇しか映さない。警告:小説と現実の区別がつかない人は絶対読まないで下さい。

シーン5-10 "スケアリモンスタ"


*警告*このブログには自殺、流血、薬物、飲酒、精神病治療のシーンが含まれます。自己の責任で対処できる方、小説と現実の区別がつく方のみ閲覧して下さい










金剛が大検を取得した。
今は高卒認定と言うらしい。進学校をドロップアウトした金剛はパチンコ屋で働いているため、夜学や、日曜に授業の行われる通信制高校に通えなかった。だから参考書を買い、仕事の合間に勉強したのだと言う。

先日のママの四回忌でかなり気持ちの落ち込んだ私に、それは喜びを与えてくれる知らせだった。嬉しくて嬉しくて、恥ずかしがる金剛を無理矢理引っぱりママのお墓まで報告しに行った。金剛の兄達は相変わらず忙しく予定が立たないので、私と祐輔でお祝いをする約束をした。
当の本人は『チェ、留璃子ちゃん、大げさ』なんて照れくさそうにぼやいたけれど。

思い出せば金剛も、長男の琥珀と並ぶくらい頭の良い子だった。幼い頃の神童も二十になれば只の人になると言われるけれど、姉のひいき目にみても今だって金剛は聡い子だ。
教えてもいない余りのある割り算を頭の中でパパっと計算したのが五歳の時だった。面白がった琥珀はテレビゲームをやらせる感覚で、幼い弟に中学高校の教科書を与えた。まだ小学校四年生の金剛に関数を教え、微積分を教えたのは六年生。化学、物理など、私が苦手とする分野も、琥珀と金剛にとっては遊び感覚なのだ。
私は嬉しかった。とても嬉しかった。ここ数週間の寝不足を補って余りある喜びだった。たとえ親馬鹿な姉と言われようと。




「留璃子ネエ、査察くるから二週間位、会社出ろよ」
珍しく黒曜から電話があったと思ったら、スゴ〜ク嫌な知らせだった。国税局の査察、つまりマルサの方達と"高倉不動産の取締役社長として会え"と、この弟は言って来たのだ。
「はぁ〜、 黒曜、お姉様お元気ですか?とか、相変わらずお美しいんでしょうね?とか言えないの?」
「そんだけ口が回るなら元気だろ?あんまり祐輔君を虐めるなよ?」黒曜独特の皮肉のまじらない平坦な口調。
「あ、ばか黒曜!その言い方、人聞き悪ぅ〜!」
少し話し合い、私は10時重役出勤で午後は適当に理由をつけ会社を出ると決めた。細かい対応は税理士の先生と経理の人間に任せれば良いと言われた。




派手にならない化粧をしながら、買ったばかりのドルチェ&ガッバーナのスーツを着る機会が出来たんだなと考える。現金なもので、前夜はあれほど重かった気分がちょっと軽くなった。
鏡の前で、極端にタイトでローライズなパンツと、構築的にカットされたジャケットの黒スーツにを着て見る。筋肉質だった太ももが痩せ、すっきりと着こなせてる自分に満足した。
インナーにはシルクの白Tをコーディネートし、ドレスダウンさせる。腕時計はホワイトゴールドのロレックスに、9センチヒールのフェラガモのパンプスを合わせ、アクセサリーはダイヤのピアスと結婚指輪だけにした。
いつも持ち歩くiPodをテーブルに置くと、替わりにiBookを手に取った。高倉不動産の事務所のデスクに座り、ただ手持ち無沙汰に査察の様子を眺めているのは退屈だろう。車で行くのだからちょっとくらい荷物が増えても平気だ。DTPの最新情報が掲載されている雑誌と、iBookを事務所に持ち込む事に決めた。パソバッグを持っていないので、ビジネス用に買った45センチのバーキンにどさどさと荷物を詰めた。. . . . . . 軽いオーストリッチ素材とは言え運動不足の腕には恐ろしく重かった。

ちょっとドキドキしながら地下駐車場に降りる。慣れた近所の道を廻ったのは先月のことで、本格的に運転するのは久しぶりだった。高倉不動産までは比較的走りやすい道ばかりだし、そろそろ朝のラッシュも終わりつつある。大丈夫。


「あれ?. . . 車、無い?」私は固まった。
正確に言えば車はあった。しかし私の赤いアウディが、黒のベンツに変わっていたのだ。
. . . まさか?
五つの輪のシンボルロゴだと思い込んで手に持した鍵は、メルセデスのマークがついていた。
「あのぉ!黒曜め!!」
新車を買った黒曜が、自分の乗っていたベンツを私の車と交換したに違いない。珍しく長電話するわけだ。よっぽど機嫌が良かったのだろう。
「黙って替えるのだけは、辞めてよ. . . 」怒りが脱力へと変わる。
運転席に乗り込んでみたものの、さて運転できるのかと悩んだ。




高倉不動産に着いてから得意だった車庫入れに手こずり、早めに家を出たのにもかかわらず事務所に入ったのは10時5分前だった。

「お早うございます」私は頭を下げた。
「お久しぶりです。留璃子さん」木村専務が席を立ち迎えてくれた。
「「お早うございます!!」」5〜6人の従業員が挨拶をしてくれた。皆、昔からの人ばかりで顔見知りだった。
私が顔を見せなかったここ三年に雇われた若い人を二人紹介され、一応確保されている社長デスクに向った。

出された珈琲を飲みながら、専務の木村さんから大まかな数字の説明を受けた。高倉不動産が一階に入るこの自社ビルや、グループ会社のテナント関係など、ほとんどが税金対策であり、私にはその複雑なやり取りが理解し難たかった。

「留璃子さん、お元気そうで」話が一段落着くと木村専務は言った。
目元をくしゃくしゃにして人の良い笑顔を見せる。パパの友人である彼とは、私が子供の頃から付き合いだ。私が名前だけの取締役に就任するまでは留璃子ちゃんと呼んでくれていた。私は木村の叔父さんと呼んでいた。
「木村さんには、母の葬式で大変お世話になりました」私は頭を下げた。もう三年にもなるのに、会う機会が無くお礼を言っていなかった。
「いや、私など何も出来ませんで。それより留璃子さん、無理せずに居て下さい」
「はい、ありがとうございます」


それからの数週間は、私にはキツい日々だった。まだ、気分の安定しない日や時があり、さぼりながら家事をする専業主婦が、いきなり取締役社長のフリをしなければいけないのだ。
従業員10人以下で売り上げも一億に満たない会社なので、査察など本来は数日で終わっても良さそうなものだ。しかし、黒曜が社長を務める本体の高倉建設はそれなりの規模があり、多くの問題を指摘されていた。結果、親族経営のグループ会社、高倉不動産、高倉地所、高倉流通への追求も厳しくなった。鋭い指摘を受ければ税理士が答えてくれるけれど、国税局の人間に本社とこちらに分かれてやって来られると困った。税理士の居ない隙にやり込められないように、いっそのこと倒れてやろうかと思ったくらいだ。
ワタシはバカでビョウジャクです イジメナイデください。

. . . 琥珀と黒曜には仕事があるのに、査察をどうしてるんだろ?
まだ私がデザインの仕事をしていた五年前は、たしか休暇を二日と半休を四日も取らされた記憶がある。パパに給料なんていらないから社長職から下ろしてくれと訴えたら、十八番の親不孝とののしられた。



「もう、帰って。後は私がやるので」
突然背後から声を掛けられ、私はびっくりした。
「え. . . っと」誰だっけ?
私は派手な化粧をした五十からみの女性を見上げた。染めた髪にはメッシュまで入り、ラメの入ったスーツはビジネスより水商売に向いている。やけに目立つアクセサリーをしているなとぼんやり見ていると、彼女は更に言った。
「後は私に任すと会長も言ってました」
「そうですか」
今回の査察に関しては会長であるパパではなく、黒曜が全責任を負って対応していると聞いている。それに一応ここの社長は私だ。顔も覚えていない従業員に指示されるいわれは無かった。

どうせ座っているだけならと思いここ数日、会社のHPに手を入れ、高倉グループ各社のリンクを貼りSEO対策をしていた。今は持ち込んでいたiBookで新しいバナーを作り、ちょうどアップするところだった。ここで作業を中断するのは都合が良くない。
「では、この作業のキリが着いたら帰らさせてもらいます」私は告げた。
「もう、良いって言ってるのに!」女性は固い口調で言った。
「はぁ?」
「まあ、勝手にすれば」
捨て台詞を言葉を残し、女性はカツカツと私の元を離れた。事務所の扉をバタンと音を立てて開けると、閉めもせず出て行った。

. . . なんかケンカ腰じゃない?

「みっちゃん。あの人、誰?」
近くで私達の様子を見ていた経理の美智恵さんに聞く。
「え、留璃子ちゃん知らないのあの人は蒲生さんだよ」みっちゃんは教えてくれた。彼女と私は同い年で普段からくだけた付き合いだ。
「蒲生さん?前から居たっけ?」
「うんん。前は建設に居た」
建設は高倉建設、つまり二番の弟黒曜が社長を勤めるグループ本社のことだ。
「ふ〜ん。なんで不動産に回されたの?」移動なら左遷だ。そのワリには態度がデカ過ぎない?
「それは、黒曜社長が、あの人を. . . 」
「みっちゃん!電話出て!」木村専務が割り込む。
「あ、はい!」みっちゃんは慌てて受話器を取る。「ありがとうございます!高倉不動産でございます!」
木村専務はスタスタとその場を去ってしまった。私は解せぬ思いで彼の後ろ姿を眺めた。みっちゃんの口ぶりだと黒曜がからんでいるいみたい。けれど黒曜は滅多なことで他人に怒をぶつけたり、人を遠ざけたりしない。
. . . それに、いつもなら木村さんが色々な情報をくれるのに?



本社から移動してきた蒲生と名乗る女性に再び声を掛けられたのは、査察の最終日だった。
見込みを大幅に上回り四週間もマルサに張り付かれ、私はへとへとになっていた。社員の皆さんにお疲れさまと挨拶を交わし、さあ帰ろうと車に乗り込む私を彼女は駐車場で呼び止めた。

「私は会長のお世話をしている蒲生よ」前置き無しに言った。
「. . . そうですか」私はもちろん名乗らない。

蒲生と名乗る女性は腕を組みながら睨んでいた。私の出方を見極めようとしているようだ。元は美人だったのかもしれなが、濃すぎる化粧とへの字に結んだ唇が、意地の悪そうな雰囲気を発散させていた。デォールのスーツが台無しだ。しかもこのファンシーな色使いはミス・デォール。無理過ぎる。

「お疲れさまでした」私は相手にしない事に決めた。長年の経験だ。彼女にクルリと背を向けると、車のロックを外した。
とl、突然腕を強く掴まれ、私は驚いて振り返った。壮年に手の届く女性は、スゴい形相でこちらを睨みつけていた。
「待ちなさいよ!逃げるの!」
「. . . 帰るだけです。手、離して」私は深呼吸してから答えた。
「あんた達は兄弟揃って私を馬鹿にしてるの?私はね、あんた達の父親と十年も付き合ってるの!それを息子のクセしてこんなショボイ事務所に飛ばして。娘まで今更、社長面してノコノコ出て来るなんて!」女性は一気に捲し立てると、最後は吐き捨てるように言った。
「人事に不満があるのなら、高倉社長に直接言えば?」家業を唯一継いでくれた、二番目の弟の名を出した。
「あのね、私はあんたの父親の面倒を見てるっていったでしょ!!あんた達の母親はもうとっくに死ん. . . 」
私はピシっと彼女の鼻先を指差し、彼女の言葉を遮った。自然と声が低くなる。我慢の限度だ。
「喧嘩売ってるつもりなら、私はいつでも買うけど?」




「ははは!留璃子ちゃん復活だぁ〜」
折よく電話をかけて来た金剛に、昼ご飯を奢ると呼び出したものの目の前で大笑いされた。
「何よ、それ?」九つも年下の弟の態度に、私は少なからずヘソを曲げた。

パパの愛人に対して、喧嘩を買うと大見得を切ったものの、自分の中で消化しきれないモヤモヤに心は爆発しそうだった。帰宅後、大切なはずの伴侶、自分の夫である祐輔にいらだちをぶつけてしまった。. . . 八つ当だった。最悪だ。いくら温厚な祐輔でも、自分には与り知らぬ怒りを止めどなくぶつけられ、困惑し、戸惑い、最後には、いいい加減にしてくれと怒りを見せた。
. . . . . . 祐輔が怒ってくれたのは良い。当然だ。祐輔を傷つけた自分が、私だって大嫌いだもの。

「祐輔君、可愛そ〜」
私のオーダーしたハンバーグまでもりもり食べている金剛は、なぜ太らないのだろう?第一、ご馳走=ハンバーグって発想が子供過ぎる。そんな子に育てた覚えは無いつもりだけど. . . . . . ?
「うん. . . 祐輔、可愛そうだよね. . . コンの言う通りだよ」私は目の前のストロベリーのフランベをつつきながら答えた。最近、食欲が少し戻ってきた。甘いもの限定で。
「ありゃ、留璃子ちゃんマジにとるんじゃねぇ〜よ!」お気楽に笑っていた金剛はちょっと慌てた。
先日の国税局の査察では、本職を持つ金剛と琥珀も休暇や半休をやりくりし苦労したようだった。
「実際、八つ当たりだもん。祐輔にしたらスゴイ迷惑だよ」私は苺の酸っぱさに顔をしかめる。
「留璃子ちゃんが元気になったって、祐輔君も喜んでるよ」
「. . . はぁ?」
「祐輔君って滅多に怒らないじゃん?」
「うん」
その祐輔を私は怒らせてしまった。
けれど祐輔はいつもみたいに私を抱きかかえて眠った。. . . ばかな私は朝起きて、自分から仕掛けた諍いをまだ引きずっていた。
. . . . . . 見送る妻がムスっとしてるなんて最低だろうな。

「あの祐輔君を怒らせるなんて留璃子ちゃんにしかできねーよ!スゴクね?」
「は?!」
「いやぁ、そこまでしつこく虐められる根性は留璃子ちゃんだ!留璃子ちゃんふっかぁつ!!」
「. . . コン」
「何?」
「ば〜か」
「俺っちバカだぞ」へへへと笑う。
私は伸びすぎた金剛の頭にクシャクシャと手を伸ばした。脱色した金色と黒のトーンがバラバラと指に絡まった。鴨のバルサミコソースや、ラムの香草焼きが絶品の隠れ家的有名店で、美味しい美味しいとハンバーグを食べる末の弟を愛しく思う。祐輔もいつだってハンバークだ。
「コンもさ、そろそろ美容院行きなさい」

子供扱いするなと金剛はプイと横を向く。その瞳は笑っていた。



         シーン5 "スケアリモンスタ"END シーン6 "グラスオブハウス"に続く







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コメント

梶 恵 さん、コメントありがとうございます!!
復活はいいけど、いきなり啖呵は下品でしたね。留璃子はもともとバイタリティー溢れる性格だったんですけど、病気は人を弱らすんですね。
”闘争心は生きる力”とは、さすが梶さん名言です!!是非、話の中で使わせて下さい!お願いします!!
いつも読んで下さり、ありがとうございます!!!

蛍さん、コメントありがとうございます!!
病気で弱った留璃子しら知らない人には、相手が誰でも負けない性格はびっくりですよね?使用後、使用前ってくらい違いま〜す。
そんな二面性だって祐輔なら、どっちでの留璃子でも良いや〜と考えてくれるはず?蛍さんがおっしゃる通り、人間怒るときは怒らないと!
いつも、読んで下さりありがとうございます!!

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Author:kyorori
登場人物、治療内容、医療機関は全くのフィクションです。病院やお薬について、仮にも参考にできたらな?と訪れて下さった方には申し訳ありません。ゴメンナサイ。

葛藤や苦しみは限りなく本物で、この小説を自己発散の場として使っています。実話より小説の方がより表現しやすいと考えての行動で、もし少しでも理解して頂けたら幸いです。

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