小説〜辿り着いたは精神病院?

資産家のお嬢様で良家の奥様。仕事良い夫、多くを持てる彼女は死の願望に取り憑かれていた。前を向き強く生きていた瞳はもう暗闇しか映さない。警告:小説と現実の区別がつかない人は絶対読まないで下さい。

シーン5-8 "スケアリモンスタ"


*警告*このブログには自殺、流血、薬物、飲酒、精神病治療のシーンが含まれます。自己の責任で対処できる方、小説と現実の区別がつく方のみ閲覧して下さい










何故か私の思い描くバスは、乗った事も無い田舎街を走る古いものだった。ガタガタと揺れる車体、色あせた緑の布が貼られた椅子。

その少女は小さかった。まだ小学生くらで、長い髪を両分けに結んでいた。左右の位置が違うのは鏡を見ながら自分でゴムを巻いたからだ。よく見ればゴムの色も黒と茶でバラバラだった。

私は少女の隣に腰掛けた。
バスに揺られながら、しばらく二人で並んでいた。
『あたし、パパが怖い』女の子はポツリと言った。
「うん」
『パパは子犬を殺したの。蹴飛ばして殺したんだって』
「うん」覚えてる。
『琥珀も、黒曜も、コンも蹴飛ばすの。コンが泣くからって怒って蹴るの。コンはまだ赤ちゃんなのに』少女は日に焼けた素足スニーカーを履いていた。床に届ききらない足をブラブラとさせていた。
『あたしパパに背中、蹴飛ばされた。スゴく痛くて、ずっと痛くて、おしっこが赤くなって、死んじゃうのかって思った。怖くて病院行きたいって、ママに言ったの。でもね、あたしが病院に行くとママが怒られちゃうんだ』
「. . . 」
『ママも蹴飛ばされるよ。顔を叩くと、よその人に痣が見えちゃうでしょ?だから叩かないで蹴飛ばすんだって。叩くと、ママのおじいちゃんもスゴク怒るんだ』

おじいちゃん。
おじいちゃんのお葬式の後、ママはしばらく部屋から出て来なかった。そして、池のある大きな家に引っ越した。ああ、あそこはおじちゃん家だったんだ。夏休みを過ごしたママの実家をどうして今まで思い出さなかったんだろ?

『パパはママにスゴク暴力をふるうの。血が一杯出た時があって、留璃子助けてって言われた. . . けど、怖くて助けられなかった』
「子供は大人を助けられないよ」私は思わず口を挟んだ。
『でも、助けてってママが、言うのに』
「ママは無理を言ってる」
『あたしのセイだから、仕方ないんだよ』少女は背筋をピンと伸ばしたまま、それでも視線は上げない。
「何が?」
『パパと離婚できないのはあたしのためなんだよ』
「パパを選んで結婚したのはママだよ」
『違う。違うの。ママはね、あたしが、留璃子が、産まれるから我慢してパパと暮らしてるんだよ。ママはね留璃子が居なかったら、パパとすぐ離婚してたって』

私はハっとした。. . . . . . るりこが うまれる から ?

『あたしのセイでパパと結婚したから、酷いことされるだよ。だからあたしがママを助けないといけないんだ。琥珀も、黒曜も、金剛も、お姉ちゃんが守るんだよって』感情を表に出さない、淡々とした口調で女の子は続ける。『でも、あたし出来ない. . . ママを助けられない。弟達も助けられない. . . . . . だってパパ怖い』少女は泣くまいと我慢し、小さな手をぎゅっと握った。

『ママは、ママのこと助けられない留璃子は嫌いなんだよ。あたしのセイだから。あたしのセイだから』女の子は唇を震わせた。
私は衝動的に少女を抱きしめた。すっぽり腕におさまる華奢な身体には、父親に蹴り飛ばされ家具にぶつかった痣が見えた。
『なんで、パパと結婚したのかな?ママはパパと結婚しなければ良かったのにね。いずみちゃんのパパも、美加ちゃんのパパも、蹴っ飛ばしたりしないって言ってたよ』

胸が痛い。どうしてこんな子供を. . . 自分の子供をこんな目に遭わせるのだろ?

『パパはね、誰も愛せない人だってママが言ってた。ママのことも、子供達のことも好きじゃないって。自分しか愛せない人間なんだって』あたしのことも愛していないんだよ、と言った途端にポロリと涙が溢れた。
『ママは、ママは、あたしを産まなければ良かったのにね』
「そんなことない!そんなこと無いよ。大人になったらあなただけを愛してくれる人が現れるよ」
少女は黙っている。
「どんなあなたでも愛してくれる人だよ」
『あたしパパが怖い弱虫だよ?』私の腕の中で女の子の震えが大きくなる。
「うん、全然大丈夫」
『ママのこと助けられない弱虫だよ?』
「うん、弱虫も好きだって」
『あたしが産まれなかったらママは. . . 』
「あなたが産まれなかったら、その人は一人になっちゃうよ。あなたをもの凄く愛してるんだよ」
『あたしを?』女の子はハっと私を見上げた。ポロポロと幼い泣き顔を見せる。
「良く頑張ったね。辛かったね。もう、頑張らなくて良いからね」私は少女の濡れた頬に自分の頬を合わせると、ヒックヒックとしゃくり上げる背中を優しく撫でた。
『あたしもう嫌だぁ!ママはどうしてぇ. . . 』
「ママは弱い人だったね」
『パパはなんで蹴るのぉ!』
「パパも弱い人なんだよ」
『だけど喧嘩強いよぉ、怖いよぉ!!』
「本当に強い人は暴力なんて振るわないよ」私は少女の涙を拭ってやりながら言った。「あなたを待っている人はとても優しくて、強いよ」


私と少女は別れを告げた。
バスを降りた私は、ぼんやりと写っていないテレビ画面を眺めていた。止めどない涙は顎を伝い、セーターの胸元までぐっしょりと濡らしていた。泣いていたのは幼い日の私だと思っていたのに、今の私も泣いていたの?顔に手をやると目元は熱を帯びていた。

明日は目、腫れるだろうなぁ?考えながら、うーんと思い切り背伸びをする。

何かが、流れ落ちたみたいな気分だった。







拍手やコメント頂けたらものスゴクものスゴク嬉しいです!!!

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コメント

梶 恵 さん、コメントありがとうございます!!
バスを何を意味するのか?専門家でない私には解りませんけれど、すくなくとも留璃子はバスに乗って良かったようです。
留璃子は正直、ブラコンです!壊れた家庭の中で必死になり弟の面倒を見たことは、本人にとっても救いだったのかもしれません。弟達が姉をどう思っているか、今後の話に深く関わって来ますが、末っ子が一番シスコンってのは決定です?!
いつも読んで下さり、ありがとうございます!!

蛍さん、コメントありがとうございます!!
やはり最後は祐輔の愛がすべてを救った。って結果に向って行ければ良いなと思っています。  世間はそんなに甘くない?そうでしょうね。けれど長い人生の中で甘〜くてのんび〜りできる時間も必要だと思ってます。. . . って、自分が怠ける為の方便?!ははは、怠けられてお酒飲めれば私はそれで良いんです!!!
ずっと読んで下さっている蛍さんに『良かった』とコメント頂けて、とてもとても嬉しいです!!  ありがとうございます!!

良かった…

留璃子さんの最後のセリフにポロっと来ました。
祐輔さんのことなんですよね?
「あなたを待っている人はとても優しくて、強いよ」
分かってるんですよね、留璃子さん。
今もじっと自分を待ってくれてる人のことを…
ああ、皆が幸せになって欲しい!
留璃子さんにそれが出来ると信じたいです。

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Author:kyorori
登場人物、治療内容、医療機関は全くのフィクションです。病院やお薬について、仮にも参考にできたらな?と訪れて下さった方には申し訳ありません。ゴメンナサイ。

葛藤や苦しみは限りなく本物で、この小説を自己発散の場として使っています。実話より小説の方がより表現しやすいと考えての行動で、もし少しでも理解して頂けたら幸いです。

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