シーン5-7 "スケアリモンスタ"
*警告*このブログには自殺、流血、薬物、飲酒、精神病治療のシーンが含まれます。自己の責任で対処できる方、小説と現実の区別がつく方のみ閲覧して下さい
業者のハウスクリーニングに来てもらった。
年末に電話をしたけれど予定は満杯だと言われ、年明けに予約をしたのだ。どうやら業者に大掃除を頼みたいと考えるのは私一人では無いと知り、すこしホっとした。
見知らぬ他人を家に上げ、自分一人で対応をするのは緊張の連続だったけれど、奇麗になった我が家は気持ちの良かった。特に気になっていた水回りがピカピカなのが嬉しい。けっして安くはないし、とても疲れたけれど、思ったより簡単だった。
もっと、早く頼めば良かったかな?
奇麗ついでと、思い切って美容院に電話をする。
「はい、T&Mサロンです」元気の良い若い女性が応える。知らない声だった。
「あ. . . 今日、カットの空きあります. . . か. . . ?」緊張で声が掠れた。
「担当の指名はございますか?」
「タカオさん、お願いできますか?」
偶然にも担当の空きがあり今日の予約が取れた。. . . 明日なら断るつもりだったの幸いだ。
気分の変調は相変わらずだった。昼にはOKだった心も、夕方にはに不安でいたたまれず、出掛けるなんて絶対無理なんて日も多かった。
でも今なら大丈夫. . . だと思う。
私は腰まで伸びてしまった髪を見ないようにして、シルクニット生地の黒いワンピースを着た。
「うわっ、ダブダブ」思わず腰廻りの布を手で掴む。
胸元がカシュクールになった膝丈のワンピーは、四年前にはもっと身体にフットするデザインだったのに、今はゆとりがありすぎる。
私は鏡とにらめっこした。
「ま、落ち感の良い素材だから良いか」妥協する事に決めた。
小物収納用の大きくて底の浅い引き出しから幅広エナメルのベルトを取り出すと、ローウェストで留めた。
更に鏡を見る。ノーメイクに黒は写りが悪過ぎた。
「化粧品、しようかな?」
ドレッサーの引き出しを開ける。「あ、コレ. . . 」愛用の化粧品の横に、ポーチに入れたままのコンビニコスメが目についた。元気なフリをして尾大病院を退院する為に、買ったワンセットだ。
. . . 百合枝ちゃん達どうしてるかな?
私は誰とも携帯番号やアドレスを交換せずに尾大病院を後にした。年末まで居たタヤマ病院の人達とも。随分仲良くしたり、お世話になった人も居たのに。
. . . どうしてだろ?私って薄情なのかな?
自分の行動に疑問を巡らせながら、久しぶりに化粧をした。ほんの薄いものだった顔色が冴えて見え、気分が良かった。
「でも、ちょい寂しいかな?」
少し考え、フランクミューラーのカラードリームをアクセントとして手首に巻いた。ピンクゴールドにベージュのクロコバンド、文字盤は複雑で深いブルーの上に、カラフルな数字が並んでいる。美容院に着いてからピアスやネックレスを外すのは面倒だ。時計ならここ数年のトレンドを知らなくても外れは無いだろう。. . . 多分。
ウォークインクローゼットの奥に入り、カシミアキャメルのロングコートと黒のケリーバッグを手に持った。ふと鏡に写った自分の姿を目にしてしまった。
「う〜ん、ケリーは固過ぎ」とても気に入ない。
私は棚を見回す。ふと薄茶のボッテガ・ヴェネタが目に付いた。上質の皮を、平織りの形で重ね編み加工したエレガンスな大人のカジュアルバッグ。そうだ、腕時計のベルトに合わせバッグもベージュ系を選ぶのがベターじゃない?コートも茶系でバランスが良い。. . . 美容院でコートを脱ぎワンピー姿になった姿を考慮すれば、ブーツは絶対黒だ。
久しぶりのコーディネートは二十分も掛けた。
「はぁ〜、家を出る前に疲れちゃった」
タクシーを降り、店の前で大きく深呼吸する。
大丈夫。十年以上も通っているお店だ。いざとなったらタクシーを呼んでもらって. . . 。
微かに震える手で私は美容院の扉を開けた。
『カラ〜ン、カラ〜ン』ドアベルが鳴る。
黒い制服に小さな名札を付けた人物が振り返った。
「ああ!留璃子さ〜ん!お久しぶりぃ!!」
「「いらっしゃいませ〜!!」」さらに、店の方々から元気の良いかけ声が私を迎えた。
「お久しぶりです」私は、ちょっとくすぐったい気分を感じた。
美容院の入居するビルにあるデリカで"健やか美味御前"とネーミングされた弁当ときんぴらサラダを買って来た。心身ともにクタクタだったけれど、夕食の準備は要らないと思えばホッとする。
. . . . . . ホっとする?
情けない。仕事もせず日がな一日ぼんやりしてるだけなのに、情けないな。ガクっと額をローテーブルに載せる。
シャラシャラと、短くなった髪の音が耳に響く。
二年以上も伸ばしっぱなしだった髪は、肩下がりのストレートで切られ、前髪は癖を生かした自然な流れを作っていた。染めていない地毛の黒さは、とっておきのトリートメント効果でツヤツヤとしている。久しぶりに整えた髪を見るのは気持ちが良い。自分の顔を見るのはまっぴらだけれど。
「瑠璃、可愛い!!すっごい可愛い!!」弁当を食べながら、祐輔は何度目になるかの言葉をくれた。
「やだ、そうかな. . . 」私は照れ隠しにお茶を口に含んだ。久しぶりにした化粧も落としていない。
「本当に、瑠璃って可愛いね!絶対三十六には見えないよ〜!!」
「. . . 」
「瑠璃、良い匂いする」祐輔は、私の肩に手を回すと髪に鼻先を埋めた。「瑠璃ぃ. . . あのさぁ、一緒にジャグジーはいらない?僕、準備して来るから?」
「. . . 」
「ね?瑠璃?」
「今日、もうシャワー浴びたの」
「お風呂はさぁ、別じゃん?」ね、と祐輔は照れた表情をした。
「知らないの祐輔?冬のお風呂はお肌の潤いを奪う、言わば美肌の敵なのよ。もう三十六だし気をつけないとね」私は目の前のお弁当箱をガサガサと重ねた。「久しぶりに美容院行って疲れたぁ。歯を磨いて寝よぉっと」席を立つ。
「え〜え〜瑠璃ぃ〜」
「美容院に行きました。スゴく久しぶりです」私は多岐川先生に報告した。
前回の面談で彼女の言葉を冷たく感じた私は、今日はキャンセルしようかと思った。しかし電話をするのが怖かった。予約を無視もできなかった。
「良かったですね」彼女は大きく微笑んだ。
「あ、ありがとうございます」
しばらく最近の日常生活について話をした後、多岐川先生は軽く机に身を乗り出した。
「椙山さん。現在の自分で、過去の子供だった自分を褒めてあげませんか?」
「え?」
「子供の頃、悲しい時や、辛い時がありましたよね?」
「. . . はい、少しは」
「その子供時代を自分で褒めてあげて下さい」
「. . . あの?自分で自分を?」私は多岐川先生の話に面食らった。過去を憐れめって言うの?臨床心理士が?
「もちろん、大人として子供を慰める気持ちでですよ。話を聞いてあげて、労って、慰めて、褒めてあげて下さい」彼女は私の戸惑いに気づいたのか、ゆっくり噛んで含めるように話を進めた。
「. . . 」
「椙山さんと、女の子は同じバスに乗り合わせます。そして少女の話を聞いてあげるんです」
. . . . . . バス?
「少女は心に抱えていた気持ちを、隣に座った大人に話します。聞いた大人はウンウンと、辛かったね、頑張ったねと、心から褒めあげます。そして抱きしめてあげてください。もう頑張らなくても良いと」
私は多岐川先生の話に圧倒されていた。
「すると少女はバスを降りられます」
彼女は私の目をじっと見つめて離さなかった。
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コメント
蛍様、コメントありがとうございます!!
大好きなお洒落に気を使うようになった事で、留璃子の回復を表現出来ればと思っていました。蛍さんのご指摘、嬉しかったです!!
まあ、お風呂については、蛍さんの得意分野という事で私には書けませんでした。
祐輔は気が長いのが取り柄なのでしばらく放置で良いかと?
いつも鋭いご指摘、恐れ入ります!!!
大好きなお洒落に気を使うようになった事で、留璃子の回復を表現出来ればと思っていました。蛍さんのご指摘、嬉しかったです!!
まあ、お風呂については、蛍さんの得意分野という事で私には書けませんでした。
祐輔は気が長いのが取り柄なのでしばらく放置で良いかと?
いつも鋭いご指摘、恐れ入ります!!!
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頑張りすぎないって点で、私は誰にも負けない自信があります!!ははは!!
臨床心理士の多岐川先生は、もちろん私の創作です。でも、ここだけの秘密ですが、実はモデルがいたりして。あ〜読まれたらバレるけど、怒られないから良いかな? あ、やっぱり私ってグダグダな人間ですね?
(HP楽しみにしてま〜す!)
いつも主人公を暖かく見守って下さり、ありがとうございます!!