小説〜辿り着いたは精神病院?

資産家のお嬢様で良家の奥様。仕事良い夫、多くを持てる彼女は死の願望に取り憑かれていた。前を向き強く生きていた瞳はもう暗闇しか映さない。警告:小説と現実の区別がつかない人は絶対読まないで下さい。

シーン4-17 "ホテルカリフォニア"


*警告*このブログには自殺、流血、薬物、飲酒、精神病治療のシーンが含まれます。自己の責任で対処できる方、小説と現実の区別がつく方のみ閲覧して下さい










祐輔にメールしようと中庭に降りた。
. . . . . . そろそろ外泊許可について知らせておかないと。

ダブダブになってしまったカーゴパンツのサイドポケットから携帯を取り出すが、この間の失態を思い出し躊躇した。みっともなく取り乱した自分の姿を思い出す. . . . . . . . . まとまらない思考と喉の乾きにイラ付きを覚えた。目眩を起こさないようゆっくり立ち上がると、あの自販機でジュースを買おうと売店とは反対側、外来用駐車場の端に向かった。
. . . 水より少しでもカロリーのあるモノを選ぶべきだけど、甘い缶珈琲は苦手だしなぁ. . . 果物系のジュースにしようかな?

ふと自販機の陰にうずくまる人陰に気づく。
「あ. . . 盛田君?」私は驚いた。あと一歩の距離に近づくまで全く気がつかなかった。
彼はアスファルトの地面に顔を向けたままペコリと頭を下げた。

私は天然果汁のオレンジジとリンゴのジュースを買うと、青白い顔をした青年の前に差し出した。
「盛田君、どっちが好き?」
「え?」
彼はぼんやりと私を見上げてから、ジュースに目をやった。随分ぼんやりと考えたあと、リンゴを指差した。
「はい」
盛田君は渡されたペットボトルをまじまじと見つめるとようやく口を開いた。
「. . . すいません」

涼しい風が吹く中庭の隅で、私達はゴクリゴクリとジュースを飲んだ。抗うつ剤で口が渇くのは患者達共通の悩みだった。

「椙山さん. . . 」盛田君は伸びた前髪の間からチラりとこちらを伺った。
「はい」
「すごいですね、ポルシェ」
「ああ、あれ」
「911カレラの、ターボですか?」
「え?どうかな ?」実は私は車に全然興味が無い。かろうじて身内の乗っている車の名前を知っているだけだった。
「弟さん、すごいですよね」盛田君は溜め息を吐いた。
「. . . え?」何が?
「弟さんですよね?雰囲気似てて」
「似てるかな?」確かに以前は良く言われた。でも覇気のないしょぼい今の自分の姿を顧みれば、あの弟達に似てるなんてこれっぽっちも思えなかった。
「俺よりずっと若いのにポルシェなんて、スゴイですよ」スゴイ過ぎます、と盛田君は繰り返す。
「ああ、運転してたのは一番下の弟。車はその兄のなの」私は説明した。「それにね、あの子ああ見えても26になるのよ」
「あ、俺、タメです」少し驚いた顔をした。「じゃ、あのポルシェ、お兄さんの車なんですかぁ」
「あ、あれも弟なの」
何を想ったのか盛田君は少し躊躇うと、再び私を横目でチラっと見る。「. . . あの、椙山さん、あのポルシェ運転したことあります?」
「うん。昔、新車の頃にね」
「いいですねぇ. . . 」珍しく微笑みらしきものを浮かべた。
私は少なからず驚いた。
「どうでしたか?ボルシェ?」
「う〜ん. . . ホイルスピンさせたり、ノッキングしてエンストしたり。私には荷が重かったな」

ぐっと沈み込むシートは乗り心地が良いのか悪いのか私には微妙なところだけれど、6速マニュアルのポルシェの運転が難しいことは確かだ。パワーがあり過ぎ、ハンドルの反応は良すぎる。アップダウンとカーブの続く山道はおろか、住宅地である実家の近辺を走らせるのも結構大変だった。車体は大きくてもベンツやBMWのセダンタイプの方が扱いやすい。

私の情けない体験談にも盛田君はがっかりすることはなかった。
「やっぱ、ポルシェですよね」彼はうんうんと頷いた。「旦那さんはランクル乗ってましたよね?」
「うん、そう。盛田君は車好きなのね?」
「俺、車が好きで、タヤマに就職出来た時は有頂天だったですよ. . . . . . でコレですから」と背後の病棟を苦々し気に振り返った。
「あ、俺、馬鹿な事. . . . . . じゃあ、運転してた方の弟さんは何に乗ってるんですか?」
「ベスパ」
「. . . え?. . . スクーターの?」ペットボトルを持つ盛田君の手が止まる。
トレナーの袖口から覗いた手首には傷が見えた。歪んだ線の両脇にポツリと並んだ赤い点々。盛り上がって赤みが強く、まだ最近のものだと解った。
「うん。そのベスパ」私はパっと目をそらした。ジュースの最後の一口を飲み干す。
「俺も実はスクーターなんです」ほっとしたように盛田君は言った。「椙山さんは車あるんですか?」どうやら彼に取って車はかなり重大なアイテムらしい。
「うん。私は、ア. . . 」ハっと気づき口ごもる。
. . . . . . . . . アウディって"普通"な車なんだろうか?少なくてもボディカラーは真っ赤で派手派手で地味とは言い難い。盛田君の反応からランクルはOKだったらしい。レクサスはNGなら、アウディはどうなんだろ?琥珀と金剛の言う"普通"に入るのか入らないのかな?

「あ、あの. . . あ、かい. . . 」私は口走る。
「はい?」
「. . . 赤い車」
「あかい、車ですか?」
「なんか、赤かい車で. . . 」
盛田君はプっと吹き出した。「椙山さんって、面白い人なんですね」
「へ、そう?」
「なんか良いとこの奥様で、俺らなんて眼中に無いんだろうって思ってました」
「ええ?」
「ずっと個室だし。静かで、上品にしてるし」
「じょ. . . ?」
「ほら、あの大きい人。うるさくて皆相手にしないのに、話聞いてるじゃないですか」盛田君は嫌そうに眉をしかめた。自分も入院翌日ロビーで児玉さんに捕まったと教えてくれた。「キモコワイですよあの人」
「あ、はは. . . 」. . . 逃げ切れないだけなのに。

いつの間にか西の木立に日差しが遮られていた。少しずつ太陽の傾く時刻が早くなって来ている。つい最近までうだる様な熱を運んだ三河湾からの潮風も、気づけば肌寒く感じた。
病院敷地から緩やかに、木々は丘から山へと続いていた。広葉樹をほとんどが占めている。紅葉の季節になれば見事な眺めだろう. . . . . . . . . 。

空のペットボトルを握り直し、そろそろ病棟に戻ろうかと盛田君を振り返る。
「三人兄弟なんですか?」不意に問われた。彼は手元のペットボトルを見つめていた。
「うちはね四人。弟が三人居るの」子供の頃は煩かったよ、と私は付け加えた。
「. . . 良いですね. . . 」盛田君はしみじみ言った。「俺、一人っ子だから」
「そうなんだ」
「母親、死んでから. . . 俺と、親父と、二人っきりで. . . すげぇ静かです. . . 」
私は思わず盛田君の顔をじっと見てしまった。寂しそうな横顔は目蓋をバチバチとしばたかせていた。
「. . . お母さん、まだお若い、よね?」目をそらすと、私は聞いた。
. . . 彼が聞いて欲しがっているみたいな気がしたのだ。
「はい、44才です」
「. . . すごく若いね」
「はい. . . すごく若いです」
「. . . 辛いね」
「はい. . . 辛いです」彼は膝の上に両手を組むと、頭を乗せた。「. . . さみしい」
「うん、寂しいよね」
「. . . . . . . . . さ、みしい. . . 」くぐもった声は震えていた。「俺. . . いい年して. . . . . . みっともない. . . 」
「年なんて、関係ないよ. . . 」
「. . . . . . 」


駐輪用のコンクリの車止めに一つ置いて座っている盛田君の肩が小さく震えた。気づいていも、私は何も言えず、何も出来なかった。夕日に照らされ鏡みたいに光る遠くの海を眺め、ただ黙って座っていた。






拍手頂けたらもの凄く嬉しいです!コメント頂けたら踊りだします!!!

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コメント

お手数掛けてすみません!!

はじめまして、梶 恵 様。
コメント、ありがとうございます。こんな暗い話を読んで下さったなんて感激です!!自分で言うのもなんですが、気持ちが落ち込まないようにして下さいね。
ああ、禁止ワード引っかかりましたか!!実は私も自分で決めた禁止ワードで書き込み出来ないことが. . . スミマセン、見直します。お手数掛けて申し訳ありません!!

コメントありがとうございます!!

蛍様、いつもありがとうございます!!
盛田君、大人しいけど存在感があってと、もっと前に出るキャラだったんですけど?表現力が足りなさすぎました。
って、脇キャラ男性ばっかですね?もしかした私にもアレが書けるかも?
馬鹿言って、すいません。

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Author:kyorori
登場人物、治療内容、医療機関は全くのフィクションです。病院やお薬について、仮にも参考にできたらな?と訪れて下さった方には申し訳ありません。ゴメンナサイ。

葛藤や苦しみは限りなく本物で、この小説を自己発散の場として使っています。実話より小説の方がより表現しやすいと考えての行動で、もし少しでも理解して頂けたら幸いです。

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