小説〜辿り着いたは精神病院?

資産家のお嬢様で良家の奥様。仕事良い夫、多くを持てる彼女は死の願望に取り憑かれていた。前を向き強く生きていた瞳はもう暗闇しか映さない。警告:小説と現実の区別がつかない人は絶対読まないで下さい。

シーン4-14 "ホテルカリフォニア"


*警告*このブログには自殺、流血、薬物、飲酒、精神病治療のシーンが含まれます。自己の責任で対処できる方、小説と現実の区別がつく方のみ閲覧して下さい










『トイレ』

児玉さんの一言で、ようやく私は解放された。


彼女が再び戻るのを恐れ急いで病棟へと戻った。空調の効いたロビーに足を踏み入れた途端ホっとして気が抜ける。自分の病室まで戻る気力も尽き、扉近くの椅子に腰を下ろした。

. . . . . . . . . 疲れた。ああ、疲れた。疲れた。もの凄く疲れた。


ぼんやりと腰掛けていると詰め所から声を掛けられた。
「椙山さん」
「はい?」振り返った。
. . . あ、携帯の電源を落としていなかった。私はポケット内をモソモソと手探りする。
祐輔に借りたメンズサイズのバーカーはブカブカで、ジップアップの両サイドに付いたポケットは携帯どころかペットボトルをスッポリ納められる。今も曽根さんに貰った500のペットが入っている。

「体重、量って下さい」看護婦さんはデジタルのヘルスメーターを手に持っていた。
「え?」
私は戸惑う。体重測定は毎月始めに一度だけと説明を受けていたから。
「磯崎先生の指示なの」
「あ. . . はい?」
「椙山さん、ご飯食べられないようだけど?体重減ってるんじゃない?」
「. . . 」

足元に置かれたコンパクトな体重計を見つめる。
ガリガリにやせ細った少女達の姿。点滴をいつもぶら下げて尾大病院の廊下をカラカラと歩く. . . 私の脳裏に、その風景がパっと鮮やかに蘇った。まるで自分の出演するドラマを見ているかのような感覚。

「えっと椙山さんの体重は. . . 44.2キロ?あら細いのねぇ!」クリップボードのメモを見ると、看護婦さんは目を丸くする。
ビク. . . 私の体は小さく震えた。体重計を見つめ、逃げられないと解っていても躊躇う。我慢強く待つ看護婦さんの笑顔に促され、私はのろのろと立ち上がった。
「サンダルは脱いで下さいね」
「. . . はい」従った。
表示された数字が確定されるのを待つほんの数秒が恐ろしく長く感じる。
「はい、44.8キロ。減ってない、良かったわね!椙山さんの身長だと. . . 50キロくらいあってもスリムなくらいよね?」看護婦さんはクリップボードに数字を記入すると、私の二の腕を軽く掴んだ。「あら、ほんと細い腕!こういうの着てるから気がつかなかったわね」
私は曖昧に頷いた。
左右のポケットに手を入れたまま体重計を降りる。そのままの姿勢で、そっとそっと部屋に戻った。怖くて誰とも目を合わせられない。


個室の扉が背後で閉まると、私は思わず大きな溜め息を付いた。殺していた呼吸を一気に吐き出す。全身の力が抜けた体を投げ出すようにベッドに腰掛けた。左手に掴んだお茶のペットと、右手に掴んだ携帯をポケットから取り出した。指先は微かに震えていた。

. . . . . . 人を騙す様な行為をしてしまった。

両手を握りしめ、ハっと左手にはめたメンズサイズのGショックに気がつく。
眠れぬ夜はしきりと時間が気に掛かる。蛍光塗料仕上げの腕時計なら、いちいちスタンドを付けなくとも済むので、祐輔のアウトドア用の腕時計を借りたのだ。

ペットボトル、携帯、時計. . . . . . 、小銭入れ. . . ジーンズのポケットに入れておいたのを思い出した。
堪らない気持ちで冷蔵庫の扉を開け、ペットボトルを押し込む。首に掛けたチェーンを外し引き出しの鍵を開けた。腕時計、携帯、小銭入れと共に片付け、再び鍵を掛ける。
ベッドに転がると背中の筋肉が強ばりに気づいた。明日は頭痛が酷くなるだろう。今だってとても気分が悪い。ああ、吐きそうだ。

そうだ。鍵を下げているこの自前のチェーンもプラチナ製で、見た目よりも重さがあったんだ。
首に掛けたチェーンと鍵を一緒に握り込んだ手は微かな震えを続けていた。



夕食はいつにもまして食欲を感じなかった。ぐちゃぐちゃと箸でご飯を突っつき、焼け過ぎた魚の身をほぐし、食べてる風を装った。
「お先に失礼します」同じテーブルで食事をしているおばあさん達に頭を下げると、彼女達の介護をしている看護婦さんの目を避けるようにして部屋に戻った。

私はベッドに横になり乱れた息が整うのを待った。少し落ち着きを取り戻した私は冷蔵庫から祐輔の持って来たチョコレートの箱を取り出した。サティの生チョコはカカオ分が多く、とても口溶けが良い。
小さなチョコを二個口に放り込むと、柔らかくなる前に飲み込んだ。カカオパウダーで軽く咽せそうになり、水をゴクリゴクリと飲む。もう一度チョコを飲み込む作業をすると、こみ上げて来るムカつきに負けないよう必死で胃を宥める

消化を助けようと横になると、目尻から頬にかけて涙が伝った。









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Author:kyorori
登場人物、治療内容、医療機関は全くのフィクションです。病院やお薬について、仮にも参考にできたらな?と訪れて下さった方には申し訳ありません。ゴメンナサイ。

葛藤や苦しみは限りなく本物で、この小説を自己発散の場として使っています。実話より小説の方がより表現しやすいと考えての行動で、もし少しでも理解して頂けたら幸いです。

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