<?xml version="1.0" encoding="utf-8" ?><rdf:RDF xmlns:rdf="http://www.w3.org/1999/02/22-rdf-syntax-ns#" xmlns="http://purl.org/rss/1.0/" 
			xmlns:dc="http://purl.org/dc/elements/1.1/" xmlns:content="http://purl.org/rss/1.0/modules/content/" 
			xmlns:cc="http://web.resource.org/cc/" xml:lang="ja">
<channel rdf:about="http://kyororinovel.blog31.fc2.com/?xml">
<title>小説～辿り着いたは精神病院？</title>
<link>http://kyororinovel.blog31.fc2.com/</link>
<description>資産家のお嬢様で良家の奥様。仕事良い夫、多くを持てる彼女は死の願望に取り憑かれていた。前を向き強く生きていた瞳はもう暗闇しか映さない。警告：小説と現実の区別がつかない人は絶対読まないで下さい。</description>
<dc:language>ja</dc:language>
<items>
<rdf:Seq>
<rdf:li rdf:resource="http://kyororinovel.blog31.fc2.com/blog-entry-101.html" />
<rdf:li rdf:resource="http://kyororinovel.blog31.fc2.com/blog-entry-100.html" />
<rdf:li rdf:resource="http://kyororinovel.blog31.fc2.com/blog-entry-99.html" />
<rdf:li rdf:resource="http://kyororinovel.blog31.fc2.com/blog-entry-98.html" />
<rdf:li rdf:resource="http://kyororinovel.blog31.fc2.com/blog-entry-97.html" />
<rdf:li rdf:resource="http://kyororinovel.blog31.fc2.com/blog-entry-96.html" />
<rdf:li rdf:resource="http://kyororinovel.blog31.fc2.com/blog-entry-95.html" />
<rdf:li rdf:resource="http://kyororinovel.blog31.fc2.com/blog-entry-94.html" />
<rdf:li rdf:resource="http://kyororinovel.blog31.fc2.com/blog-entry-93.html" />
<rdf:li rdf:resource="http://kyororinovel.blog31.fc2.com/blog-entry-92.html" />
</rdf:Seq>
</items>
</channel>
<item rdf:about="http://kyororinovel.blog31.fc2.com/blog-entry-101.html">
<link>http://kyororinovel.blog31.fc2.com/blog-entry-101.html</link>
<title>シーン7 &quot;ルーズユアセルフ&quot; 後書き</title>
<description> それぞれの道を歩み始めた留璃子達の先には何が待っているのか。人は何故産まれ、何の為に生き、何処へ辿り着くのでしょう？長男の琥珀は優秀な医師であり資産家の息子であるという、人もうらやむ環境を自ら捨て去りました。危険の中に身を投じる決意をした彼の目は何を見ているのでしょうか？二男の黒曜はひたすら父親に忠誠を示し家業を守ってきました。不器用な彼が初めて父親の意向に逆らい自分の欲しい物を求めた結果が、妻と
 </description>
<content:encoded>
<![CDATA[ <br /><br />それぞれの道を歩み始めた留璃子達の先には何が待っているのか。<br />人は何故産まれ、何の為に生き、何処へ辿り着くのでしょう？<br /><br />長男の琥珀は優秀な医師であり資産家の息子であるという、人もうらやむ環境を自ら捨て去りました。危険の中に身を投じる決意をした彼の目は何を見ているのでしょうか？<br /><br />二男の黒曜はひたすら父親に忠誠を示し家業を守ってきました。不器用な彼が初めて父親の意向に逆らい自分の欲しい物を求めた結果が、妻と自分の子を苦しめる行動となってしまいました。<br /><br />三男の金剛は寂しい子供時代を送り、身の置き所を持たずに生きてきました。その彼が少しづつ自分の居場所を、自らの手で作り始めました。<br /><br /><br />長女の留璃子は父親とのしがらみを自らの手で断ち切り、改めて祐輔と二人だけで歩き始めようとしています。うつ病はまだ完治していません。この先もまた苦しむことはあるでしょう。しかし留璃子には自分の行くべき道が、なんとなく見えて来たのではないのでしょうか？<br /><br />あなたの辿り着く場所はどこでしょう？<br />留璃子の辿り着く場所の隣には、きっと祐輔もいることでしょうね？<br /><br /><br />拙い文を読んで下さった皆様にお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。<br />また文中の描写で不愉快な思いをされた方がいらっしゃいましたら、ここでお詫び申し上げます。この小説は全くのフィクションですが、葛藤や苦しみの表現は自分の体験を元に書いた部分もあります。けっして話を盛り上げる為だけに様々な病名を出したわけでは無い事をご承知置き頂ければ幸いです。<br /><br />少しの休憩をとりました後、番外として『シーン7 "ペルソナ"』で主人公視点以外の物語を書けたらな？と考えております。<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><span style="font-size:x-small;">追記　命日の三月二十三日に完結できたこの物語を天国の母に捧げ　私を産んでくれてありがとうと書き添えさせて頂きます</span><br /><br /><br /><br /> ]]>
</content:encoded>
<dc:subject>小説後書き</dc:subject>
<dc:date>2008-03-23T08:46:08+09:00</dc:date>
<dc:creator>kyorori</dc:creator>
<dc:publisher>FC2-BLOG</dc:publisher>
</item>
<item rdf:about="http://kyororinovel.blog31.fc2.com/blog-entry-100.html">
<link>http://kyororinovel.blog31.fc2.com/blog-entry-100.html</link>
<title>シーン7-2 &quot;ルーズユアセルフ&quot;</title>
<description> ＊警告＊このブログには自殺、流血、薬物、飲酒、精神病治療のシーンが含まれます。自己の責任で対処できる方、小説と現実の区別がつく方のみ閲覧して下さい「私、色々考えました」もう何度目になるだろう？臨床心理士の多岐川先生との面談は足掛け三年に渡っていた。「自分の中でけじめを付ける必要があるんです。これ以上、結論を持ち越すことはできません」真摯な眼差しを向ける多岐川先生に、私は告げた。「今、今が、その時な
 </description>
<content:encoded>
<![CDATA[ <font color="red"><br />＊警告＊このブログには自殺、流血、薬物、飲酒、精神病治療のシーンが含まれます。自己の責任で対処できる方、小説と現実の区別がつく方のみ閲覧して下さい</font><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br />「私、色々考えました」<br />もう何度目になるだろう？臨床心理士の多岐川先生との面談は足掛け三年に渡っていた。<br />「自分の中でけじめを付ける必要があるんです。これ以上、結論を持ち越すことはできません」<br />真摯な眼差しを向ける多岐川先生に、私は告げた。<br />「今、今が、その時なんです」<br /><br /><br /><br />バイトを転々としていた金剛が、プログラマーとして正社員契約を結んだと聞いたのはその週末だった。<br />「コン、おめでとう！」私は声が震えた。「コン、良く頑張ったね」<br />高校をドロップアウトしてから自力で大検をとり、専門職まで得たのだ。小さかった弟が、あの末っ子の金剛が. . . 私は胸がいっぱいだった。<br />「よせよ留璃子ちゃん！これから、これからだって！」金剛は照れくさそうに言った。<br />「コンちゃんC言語独学だって？すっげぇ！！」祐輔が興奮しように言う。<br />「すっげぇ人手不足らしくてさぁ？今のとこ、５ヶ月くらいになるかな？雑用やりながらプログラムやらしてもらってたんだけど」へへへと頭をかく。「社員契約にしてくれって社長に言われた時はびっくりしたぜ？マジぃ？ってカンジ」<br />ひとしきりプログラム用語が飛びかう会話を金剛と祐輔は交わした。<br /><br />「コン。朱実さんから電話あったよ」<br />私は金剛が二十歳で結婚そして一年足らずで離婚した女性の名前を挙げた。<br />「彼女、再婚するんだって？子供も、新しい旦那さんの籍にいれるって？」<br />「うん。そう言ってた」<br />「え？コンちゃんの子供を養子にしちゃうの？」祐輔は驚く。<br />「違う、朱実さんの子は、コンの子供じゃないのよ」私は訂正する。<br />「留璃子ちゃん知ってたの？」金剛は意外そうな顔をした。<br />金剛と知り合った時、朱実さんは既に妊娠していた。<br />朱実さんを庇い、八ヶ月の早産で産まれたと周囲には言っていたけれど、4800グラムもあったので内心変だと思っていた。<br />先日再婚の知らせをくれた朱実さんの口から、自分たちの子と周囲に告げていた少年は、実は金剛の実子で無いと告げられた。それを承知で今まで養育費を払ってくれていた金剛に、心から感謝していると電話の向こうで彼女は泣いていた。<br /><br />「朱実さん、幸せになると良いね」私は心から願った。<br />「そうだなぁ」金剛は優しい目をした。「幸せな家庭、作れりゃ良いよな」<br />「今度はさ、コンちゃんの番だね？」<br />祐輔に混ぜっ返されて金剛は舌を出した。<br />「二度も結婚すりゃ十分！もう間に合ってます！」<br /><br /><br /><br />黒曜は離婚調停を申し立てた。<br />紗香さんはガンとして離婚を拒み、黒曜の不義を理由に強い対立の姿勢を見せた。双子のマヤちゃん、マイちゃん、産まれたばかりのマオちゃんの為にと、私に弁護証人に立って欲しいと言って来た。<br />私は首を横に振った。<br />『やっぱり留璃子姉さんも、身内が可愛いのねぇぇ！！』紗香さんは激怒し、私を裏切り者と呼んだ。<br />暴言に、反論しようとした祐輔を私は止めた。<br />紗香さんには言う権利がある。<br />私達には、彼女の心の痛みを甘んじて受ける義務がある。<br /><br /><br /><br />琥珀は勤務先の医院や、病院の夜勤をを全て辞めた。<br />国内での手続きを終えフランス行きの飛行機に乗り込む琥珀はサバサバとした明るい表情をしていた。まるで憑き物が落ちたみたいだった。<br />見送る私達にとても穏やかな笑顔を見せた。<br />「じゃあ、行って来るからな」<br />「. . . 琥珀」私は胸が詰まった。<br />「泣くなよ？留璃子姉ェ」<br />「琥珀君、気をつけてね！」祐輔は私の肩を抱きながら琥珀と握手を交わした。<br />「琥珀兄ィ、連絡しろよぉ！」金剛は軽い調子で言う。「くたばるんじゃねーぞ？」<br />「あっはは！俺がそう簡単にくたばるかっての！」<br />ジーンズにニット、片手にデイパックというカジュアルな服装をした琥珀は、最後に大きく手を振ると姿を消した。<br />しばらく動けずに泣いていた私の肩を、そっと祐輔が支えてくれた。<br />ソッポを向きながらも側でじっと待っていてくれた金剛がポソリと呟いた。<br />「国境なき医師団、か. . . 」<br /><br /><br /><br />梅から桜へと季節が移ろうという時期、そのセレモニーはささやかに行われた。<br />『桜梅(おうめ)公園』<br />公園の出入り口にある小さな石碑に刻まれた名前。<br />地下鉄駅が開業して急に発展したこの地域の、僅かな憩いの場所として造られた公園。なるべく元の形で梅や桜の木が残された、お爺ちゃんの公園。<br />「ママは. . . 」私は空を見上げて行った。<br />春の柔らかい空気には仄かな土の匂いがする。<br />「ん？何、瑠璃？」<br />「ママは、お爺ちゃんとお婆ちゃんと、一緒に居るのかな？」<br />「もちろんだよ」祐輔は優しく言うと、握った私の手を引き寄せた。「ずっと一緒だよ」<br /><br />道路を行く車が途切れた瞬間、遠くの空でヒバリの鳴く音が聞こえた。<br /><br /><br /><br />　　　　　　　　　　　　< END ><br /><br /><br /><br /><br /><br /><span style="font-size: 80%">拍手やコメント頂けたらものスゴクものスゴク嬉しいです！！！</span> ]]>
</content:encoded>
<dc:subject>連載小説</dc:subject>
<dc:date>2008-03-22T08:57:44+09:00</dc:date>
<dc:creator>kyorori</dc:creator>
<dc:publisher>FC2-BLOG</dc:publisher>
</item>
<item rdf:about="http://kyororinovel.blog31.fc2.com/blog-entry-99.html">
<link>http://kyororinovel.blog31.fc2.com/blog-entry-99.html</link>
<title>シーン7-1 &quot;ルーズユアセルフ&quot;</title>
<description> ＊警告＊このブログには自殺、流血、薬物、飲酒、精神病治療のシーンが含まれます。自己の責任で対処できる方、小説と現実の区別がつく方のみ閲覧して下さい主婦不在の家で年賀を祝うことは出来ないから老舗の温泉に集まれと、パパからの連絡があったのは年末も押しせまった時期だった。名古屋市近郊のこの宿は値段と料理が良く非常に高額であることで知られていた。正月なら、さらに値段は上がるのだろう。パパは一緒に住んでいる
 </description>
<content:encoded>
<![CDATA[ <font color="red"><br />＊警告＊このブログには自殺、流血、薬物、飲酒、精神病治療のシーンが含まれます。自己の責任で対処できる方、小説と現実の区別がつく方のみ閲覧して下さい</font><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br />主婦不在の家で年賀を祝うことは出来ないから老舗の温泉に集まれと、パパからの連絡があったのは年末も押しせまった時期だった。名古屋市近郊のこの宿は値段と料理が良く非常に高額であることで知られていた。<br />正月なら、さらに値段は上がるのだろう。<br /><br />パパは一緒に住んでいる女性を同行する予定だと、黒曜を通じて聞かされた。<br />ソヨンさんと暮らしている黒曜は来るのを渋っていたがに逆らうことはできず、巻き添えとばかりに、私と祐輔も参加する約束させた。パパと同じ部屋で寝起きするなんてまっぴらだと主張した金剛も、琥珀に首根っこを捕まえられるようにやって来た。<br /><br /><br />夕食会場の『牡丹の間』でパパを待ちながら『面倒を見てくれている人』は、どんな女性だろうと、私は考えを巡らせた。<br />. . . できたら、家庭的だったらなぁ。パパもいいかげん落ち着いても良い年だもの。<br /><br />「良い年して新年会かよぉ！」不満タラタラの金剛。<br />「コンいつまでもブーたれてんじゃねぇよ？ん？」長兄の琥珀は末弟を捕まえ、いきなりヘッドロックの体勢をとった<br />「ぐぇ～っぇえ！止めろ～よぉ！琥珀兄ィ！」<br />お膳の上のお品書きを読むのを邪魔され、私は注意した。<br />「ちょっとぉ、じゃれるならあっちでやりなさい」シッシと手で追い払う。<br />到着が遅れているパパと同伴者を待つ間に、ちゃかり先にお酒を飲み始めた男達は宴会気分が盛り上っていた。<br />湯上がりの浴衣をはだけ、子供みたいに遊んでいる。<br />「ほら、コンちゃんタッチタッタ！」祐輔も琥珀金剛の戯れ合いに加わった。<br />「祐輔君、タァァッチ！！」<br />「俺の延髄切りを喰らいたい奴は誰だぁ？」<br />悪のりした琥珀が長い足を振り回し、よろけた金剛が私の背に乗りかかるように倒れて来た。<br />コップの烏龍茶がシルクウールのニットの袖を濡らす。<br />「私が笑ってるうちに止めなさいよぉ？」私は目線だけ向けると言った。<br />その瞬間、仲間に加わろうと琥珀の足を掴んだ黒曜の動きがピタっと止まる。<br />子供の頃やった遊びのように全員の呼吸が一致した。<br />「. . . 留璃子ちゃん微妙に怖えぇ. . . 」<br />金剛が聞き捨てならないセリフを吐いた。<br /><br />図体の大きな奴ばかりの騒ぎは限りなく鬱陶しかった。<br />だだっぴろい宴会場の端に追いやられた弟達は、お膳をひっくり返す心配が無くなったとばかりに益々大騒ぎしている。他所から聞こえて来る騒音も似た様なものなのだ、うるさいのはこのさい我慢する。<br />. . . 正月でお酒が入っているとはいえ、今日のテンションは子供の頃に戻ったみたいだ。<br /><br />「ね、ね？久しぶりに麻雀もしねぇ？」<br />金剛の提案を即黒曜が否定する。<br />「人数合わねぇだろ？飲みに行こうぜ！ここのラウンジの女の子レベル高いぜ？」<br />「あ、僕マージャンできない！」祐輔。<br />「それなら大丈夫、私が後ろに付いてあげるから」私は一人は慣れた場所から声をかけた。<br />「瑠璃と一緒ぉ？やるやる！」嬉しそうに笑う。<br />琥珀は祐輔の肩に手を回すと顔を近づけた。<br />「祐輔君？たまには留璃子姉ェから離れたらどうだよ？」内緒話を装って聞こえよがしに言う。「正月くらい息抜きしろよ？」<br />「そうだぞぉ祐輔君！たまには男同士で飲もうぜ？」黒曜は真面目な顔で言うと祐輔のグラスにビールを注ぎ足した。<br />「ちょっと、そこ！飲み過ぎ！」私はお酌し合っている祐輔と弟達をたしなめた。「パパが来る前に出来上がっちゃってどうするの？！」<br /><br /><br />「お連れ様がお見えになりました！」仲居のお姉さんが笑いながら案内を述べた。<br />. . . 体格の良い大の男がじゃれあう姿はそりゃ見物だろう？<br />「お前ら俺抜きで、もう盛り上がってるのか？」<br />パパは姿を見せると、座敷の向こうから上機嫌な声を掛けた。<br />「まあ良い。正月だ。今日は無礼講だ！」<br />その後ろに隠れるように立つ女性。<br />「ああ、小谷さんだ。お前ら覚えてるだろ？」<br />見違えるほど高級な衣装や宝石で身を飾り、私達に向かい無言でペコリと頭を下げた。<br />. . . . . . もちろん覚えている. . . . . . ママの介助をした家政婦さん。<br /><br />「親父、遅かったな？」琥珀は挨拶の口火を切った。「明けましておめでとうございます」<br />「明けましておめでとうございます」<br />「おめでとうございます。今年もお願いします」<br />「明けましておめでとうございます」<br />次々に新年の言葉を述べる。<br />「. . . おめでとうございます」私はなんとか声を絞り出した。<br /><br />琥珀は冷静で如才ない態度でパパにお酌をした。<br />顔や態度に出さない黒曜はソツなくパパの話に相づちを打った。<br />しきりに金剛は疲れていないか私に気を使ってくれた。<br />私の隣の祐輔はニコニコしながら料理を平らげている。<br />. . . . . . 私は。<br />私は平然を保とうと震える手を必死で押さえいた。<br />上座のパパの隣で、その女性は張り付いたような笑顔を浮かべていた。<br /><br />小谷さん。<br />ママの介護を頼んだ家政婦さん。<br />長男の琥珀を喪主としたお通夜に、旅行先から戻ったパパが伴っていたのが彼女だった。<br />葬儀会場に入るなり大泣きしたパパが次に取った行動が、その小谷さんを罵る事だった。<br />『お前ぇ！看護婦を頼んでおかなかったのかぁぁぁぁああああ！！！』<br />『わ、私は、聞いて、ま、せん. . . 』<br />『そんな訳あるかぁ！お前に言いつけておいて、鍵まで渡しておいただろうがぁぁぁあ！！』<br />『で、でも、私は. . . 』<br />『うるせえぇ！！』<br />パパは家政婦の小谷さんに看護婦の手配を頼んだと言った。<br />小谷さんはパパから旅行に誘われ同行しただけだと説明した。<br />紗香さんは黒曜が四国に出張中に実家に里帰りしていた。<br />黒曜は自分の不在中も紗香さんとパパ、家政婦さんが家に居ると思っていた。<br /><br /><br /><br />「瑠璃？また眠れないの？」<br />夜明け前にお手洗いに起きた祐輔がリビングに顔を出した。<br />「. . . うん」<br />私はソファーの上で毛布に包まったまま、のろのろと祐輔の顔を見た。<br />「瑠璃. . . 」<br />「祐輔は眠って、仕事あるでしょ？」新年会以来、私は極端に眠れなくなってしまった。<br />祐輔は何も言わず、毛布の上から私をそっと抱きしめた。<br /><br /><br /><br /><br />琥珀から話があると連絡があったのは、暦が節分を過ぎた頃だった。<br />珍しく自分のマンションに招いてくれたので、私は手みやげに琥珀の好きなイタリアワイン、2000年のバローロとウォッシュチーズを持参した。<br /><br />「琥珀。ベーグルサンド持って来たけど？」私は軽食に用意した袋を差し出す。<br />「ああ、サンキュ」受け取るとオープンキッチンに向き直った。「留璃子姉ェ、珈琲か紅茶どっちにする？」<br />「珈琲をお願い」<br />稼ぎの良い単身者かDNKS向けに設計されたこの物件は、都心にあるにも関わらず南間口が大きく、20畳以上もあるリビングをさらに広々と見せていた。図面の段階からデザインさせたインテリアはすっきりとセンス良く、大きなアクアリウム水槽がこの部屋に安らぎを与えていた。<br />「琥珀。いつも奇麗にしてるね」感心して言った。<br />. . . 私も以前はチリ一つなく片付けていたのになぁ. . . 。<br />「そうか？滅多に掃除なんてしねえけどな」琥珀はマグカップを私に渡すとソファーの反対側に座った。<br /><br />ダイニングを兼ねるローチェストテーブルには座り心地の良いソファーがコの字型に置かれていた。収納型のテレビボードと、ノートパソコンの乗った小型で背の高いテーブル以外、何も置かれていなかった。<br />. . . まったく琥珀らしい部屋だ。<br /><br />「留璃子姉ェ最近どうだ？」<br />「まあまあかな？」<br />「寝てるのか？」<br />「う～ん」化粧もしていない顔には、くっきりと目の下のクマが浮いていた。<br />「臨床心理も、ちゃんと通ってるか？」琥珀は医者モードで聞いてくる。<br />「うん」<br />自分で選んだベーグルサンドを食欲の湧かない目で眺めると、食べる振りをやめて皿に戻した。<br />「パパは. . . パパはさぁ、税務署にチクった愛人を切ったと思ったら、今度はママの看護婦を手配し忘れた女と暮らしているのねぇ」<br />私は珈琲マグの中を覗きながら言った。<br />「どっちもママが生きてる頃からの妾ってワケよね？. . . あの家に、ママの家にそんな女を住まわせるなんて. . . そりゃ、いくらパパだってお仏壇が背中にあっちゃ寛げないはずよねぇ」可笑しくもないのにクスクスと笑いが漏れる。<br />. . . . . . . . . だから仏間を移動したのだ。<br />「留璃子姉ェ」琥珀はやんわりと言う。<br />「琥珀. . . パパはママをわざと置いて行っのよねぇ？」笑いは洪笑を通り過ぎ悲鳴になりつつあった。<br />「ママは！あの部屋でぇ、水も飲めないでぇ、お手洗いにも行けなかった！. . . ママは、自分の、自分の排泄物にまみれて弱っていったのよね！！」<br />口を噤むと、アクアリウム装置の水音が微かに聞こえた。<br />「. . . ママは渇き死んだ。パパはママを渇き殺した」<br />「留璃子姉ェ、考えるな」<br />「無理」<br />「考えてもどうにもならねえ。辛いだけだろ？」<br />「許せない」ツーゥっと涙が頬を伝う。手にしたカップの縁にポトリと雫が当たった。<br />「忘れるしかねえ」<br />「許せない」<br />「お袋は帰って来ねえぞ」<br />「許せない」私はかたくなに首を振った。「私はパパを許さない」<br />「留璃子姉ェ. . . 」<br />「琥珀！琥珀なら気がついてたんでしょ？！パパはワザと介護を放棄したのよぉ！ママが邪魔だったから！死んだってかまわないって捨てて行ったのよぉ！！」<br />「留璃子姉ェ落ち着け？な？」<br />「もっと早くママを見に行っていれば。そうよ、私は自分のマンションじゃなくて実家で療養すれば良かったのよ！どうせ寝てるだけならママの隣で寝てれば、薬だって、お水だって、ちゃんと飲ませてあげられたのに」<br />次から次へと言葉が勝手に溢れ出し止まらない。<br />「けど、けど、私はママのことを思いやる気持ちが無かった！せっかく妊娠したのに自分の不注意で流産させて. . . もう、もう、赤ちゃん産めなくなったって、 私、私、そうやって自分の悲しみに浸っていたのよぉ、悲劇のヒロインみたいにぃ！ママが、私を産んでくれた母親が死にかけてるのに. . . 自分のことしか考えていなかったのよぉぉ. . . 自分勝手でママを死なせたぁ. . . ママを. . . 」言葉は悲鳴になり、嗚咽に変わる。<br /><br />「琥珀ぅ. . . ママを、助けられなかっ、たぁぁ！！. . . マ、マを、ママを、守れなかったぁぁ. . . ぅ. . . ひっく、ひっ、ひっく. . . くっくぅぅぅううう」<br />「留璃子姉ェ」<br />「. . . ぅ、うう. . . こ、怖い、怖い. . . パパ、怖い. . . わ、私も、ママみたいに. . . なるのぉ？. . . あ、あんな風に、い、生きたままぁ. . . 乾いて死ぬな、らぁ. . . じ、自分で、死んだ方が. . . そうよ、死に方くらい、自分で選び、、、」<br />突然琥珀は私の両腕をガシっと掴んだ。<br />「留璃子姉ェは、お袋とは違うだろ！」痛いくらいの力で揺すぶる。<br />力の抜けた私の頭はカクカクと揺れた。<br />「留璃子姉ェには祐輔君が居る！お袋とは違う！」<br />「. . . ゆ、祐輔？」<br />「そうだ。祐輔君は留璃子姉ェを放っておいたりしねえよ」琥珀は私の瞳をじっと見つめ噛んで含めるように言った。「祐輔君は離れろって蹴飛ばしても留璃子姉ェの側を離れねぇだろ？な、だろ？」<br />「. . . ゆ、う、すけ」<br />「ああ、留璃子姉ェには祐輔君が居る」<br /><br /><br />取り乱した私を琥珀は家まで送ってくれた。祐輔の帰りを待ち、ふざけて私を腕の中へ押しやる。<br />「ほい。留璃子姉ェ、ちゃんと返したからな」あはははと声を上げて笑った。<br />「. . . 何よ。モノみたいにぃ」<br />「祐輔君」琥珀は静かな声で呼んだ。<br />「何？」<br />「留璃子姉ェのこと頼む」<br />「うん！もちろん」祐輔は弾ける様な笑顔を見せた。<br />「琥珀！」<br />私の呼びかけに琥珀は片手を上げると軽く振る。<br />そのまま振り返らずに帰って行く後ろすがたを、私はずっと見送った。<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><span style="font-size: 80%">拍手やコメント頂けたらものスゴクものスゴク嬉しいです！！！</span> ]]>
</content:encoded>
<dc:subject>連載小説</dc:subject>
<dc:date>2008-03-21T08:55:07+09:00</dc:date>
<dc:creator>kyorori</dc:creator>
<dc:publisher>FC2-BLOG</dc:publisher>
</item>
<item rdf:about="http://kyororinovel.blog31.fc2.com/blog-entry-98.html">
<link>http://kyororinovel.blog31.fc2.com/blog-entry-98.html</link>
<title>シーン6 &quot;グラスオブハウス&quot; 後書き</title>
<description> 経済的に恵まれた高倉家で、一見何不自由無く育ったように見える留璃子達姉弟は、それぞれに心の傷を背負って生きています。家族という絆は脆いガラスの家の中でどんな役割を果たしているのでしょうか？タイトルのグラス・オブ・ハウスはビリ・ージョエルの名曲をモチーフに命名しました。この曲は実際の少年の犯罪を元に書かれたと聞きかじった記憶があります。次回シーン7&quot;ルーズユアセルフ&quot;は最終章となります。お気づきの方も
 </description>
<content:encoded>
<![CDATA[ 経済的に恵まれた高倉家で、一見何不自由無く育ったように見える留璃子達姉弟は、それぞれに心の傷を背負って生きています。<br /><br />家族という絆は脆いガラスの家の中でどんな役割を果たしているのでしょうか？<br />タイトルのグラス・オブ・ハウスはビリ・ージョエルの名曲をモチーフに命名しました。この曲は実際の少年の犯罪を元に書かれたと聞きかじった記憶があります。<br /><br />次回シーン7"ルーズユアセルフ"は最終章となります。お気づきの方も多いと思いますが、Lose yourself は映画『8mie』のサントラ曲の一つからインスピレーションを得たタイトルです。たった８マイルの距離が多くを隔てているのだと、主演のエミネムが血を吐くようなリリックを披露しています。<br /><br />留璃子や取り巻く人々は、8マイルの向こう側へ渡る事が出来るのでしょうか？<br /><br />いつもコメントを下さる方々、読んで下さる方が、訪れて下さる方が、メールを下さった方が、本当に感謝しております。 ]]>
</content:encoded>
<dc:subject>小説後書き</dc:subject>
<dc:date>2008-03-20T08:43:37+09:00</dc:date>
<dc:creator>kyorori</dc:creator>
<dc:publisher>FC2-BLOG</dc:publisher>
</item>
<item rdf:about="http://kyororinovel.blog31.fc2.com/blog-entry-97.html">
<link>http://kyororinovel.blog31.fc2.com/blog-entry-97.html</link>
<title>シーン6-11 &quot;グラスオブハウス&quot;</title>
<description> ＊警告＊このブログには自殺、流血、薬物、飲酒、精神病治療のシーンが含まれます。自己の責任で対処できる方、小説と現実の区別がつく方のみ閲覧して下さいママはリハビリの甲斐あって明日にでも退院できると、見舞いに来た琥珀が話してくれた。 私が入院した後、ママの付き添いは家に通ってもらっている家政婦さんに頼んでいた。その人に退院後のママの介護もしてもらうことになったと言う。私が結婚後に変わった家政婦さんで、
 </description>
<content:encoded>
<![CDATA[ <font color="red"><br />＊警告＊このブログには自殺、流血、薬物、飲酒、精神病治療のシーンが含まれます。自己の責任で対処できる方、小説と現実の区別がつく方のみ閲覧して下さい</font><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br />ママは<a href="http://blog.fc2.com/tag/%A5%EA%A5%CF%A5%D3%A5%EA" class="tagword">リハビリ</a>の甲斐あって明日にでも退院できると、見舞いに来た琥珀が話してくれた。<br /><br /> 私が入院した後、ママの付き添いは家に通ってもらっている家政婦さんに頼んでいた。その人に退院後のママの<a href="http://blog.fc2.com/tag/%B2%F0%B8%EE" class="tagword">介護</a>もしてもらうことになったと言う。私が結婚後に変わった家政婦さんで、愛想は良いけれど家事全般が苦手だった。<br /> 私が不安げな顔をしたのだろう、<a href="http://blog.fc2.com/tag/%B2%F0%B8%EE" class="tagword">介護</a>自体は専門家に任せるように言い含めておいたので大丈夫だと琥珀は受けおってくれた。<br /> <a href="http://blog.fc2.com/tag/%B2%F0%B8%EE" class="tagword">介護</a>保険と実費を使った、<a href="http://blog.fc2.com/tag/%A5%D8%A5%EB%A5%D1%A1%BC" class="tagword">ヘルパー</a>や入浴サービスなどのケアマネジャーのプラン全てに目を通してくれたそうだ。琥珀の同僚の老年科医師の推薦による、理学療法士による<a href="http://blog.fc2.com/tag/%A5%EA%A5%CF%A5%D3%A5%EA" class="tagword">リハビリ</a>を受けられる施設も見つかったらしい。ここも送迎<a href="http://blog.fc2.com/tag/%B2%F0%B8%EE" class="tagword">介護</a>付で、パパや同居している紗香さんの負担を少しでも減らせるだろうと話してくれた。<br /><br /><br /><br />「留璃子ちゃん. . . 」<br />祐輔が出勤した昼間見舞いに来てくれた金剛は、私の手を取り泣いていた。<br />「コン、何ベソかいてるの～？」<br />「ママの看病で、無理したんだろ？. . . せっかくママが退院できたのに、留璃子ちゃんが倒れて、俺、俺、ゴメン. . . 」<br />「コ～ン、おば～か！疲れが原因で、お腹切るワケないでしょ？」私は点滴に繋がれた手を伸ばすと末の弟の頬をつまんだ。「手術って言っても、盲腸と一緒じゃない？」<br />私はあははと笑ってやった。<br />「ちぇ、留璃子ちゃんスゲェ元気じゃん！」悪態を付きながらも金剛の目は不安げだった。<br /><br />術後二週間経ち、危惧されていた腹膜の炎症も抗生剤の点により峠を越えたと、今朝医師に告げられたばかりだった。もう一つの懸念だった出血も、ギリギリのところで輸血せずにすんだ。私に血液を提供するためにと金剛の奴、煙草とをお酒を控えてたんだぞと、琥珀がこっそり教えてくれた。<br />痛みと炎症でかなりの衰弱を感じていたが患部を癒着させないために、ある程度体を動かす必要もあると指導されていた。<br /><br />. . . 先に退院できたママの様子が気に掛かる。後で実家に電話してみよう。<br /><br />一ヶ月以上も仕事を抜ける私は、職を辞任しようと思った。しかし直接の上司である企画部長が誠意を込めて引き止めてくれた。私は申し訳なく思いながらも、来月には出社しますと答えた。<br /><br /><br /><br />「パパ、ママの様子はどう？<a href="http://blog.fc2.com/tag/%A5%EA%A5%CF%A5%D3%A5%EA" class="tagword">リハビリ</a>順調かな？」私は電話の向こうのパパに聞いた。<br />私は退院後、日に2度の電話を日課にしてしまった。<br />「留璃子！お前ェ人に電話しといて挨拶もなしか？！」<br />「ああ、ゴメンゴメン！パパは相変わらず忙しいの？無理しないでね～ぇ？」<br />「忙しいのなんのって！まあ、体がもたんわ！！」受話器を通してもパパの声はガンガン響く。<br />私はソファーに寝転がる姿勢を少し変えると、お腹に負担のかからない格好になった。ママの顔を見に行きたかったけれど、琥珀に脅されたらしい祐輔に泣いて頼まれて大人しくしていた。<br />. . . ったく大げさなのよねぇ。タクシーに乗ってけばどうってことないのに。<br />「ママが十分に水分とってるかちゃんとチェックしてくれてる？<a href="http://blog.fc2.com/tag/%A5%D8%A5%EB%A5%D1%A1%BC" class="tagword">ヘルパー</a>さんはどんな人. . . 」<br />「あの<a href="http://blog.fc2.com/tag/%A5%D8%A5%EB%A5%D1%A1%BC" class="tagword">ヘルパー</a>は駄目だ！まっずい飯作りやがって！！俺の口には合わん！おかげで毎日外食だぞ！！」不機嫌な声。<br />ママの退院後、週6度<a href="http://blog.fc2.com/tag/%A5%D8%A5%EB%A5%D1%A1%BC" class="tagword">ヘルパー</a>さんを頼んでいた。夕方来てもらい、ママの着替えなどの身の回りの世話や、夕食作りとその介助を頼んでいた。家政婦さんにはその間休息を取ってもらい、夜間のお手洗いの補助をお願いしていた。その他の細々としたことは、同居している黒曜の奥さん紗香さんが面倒を見ていてくれる。<br />例えば、再発しやすい<a href="http://blog.fc2.com/tag/%C7%BE%B9%BC%BA%C9" class="tagword">脳梗塞</a>には血流を良くする薬の服用と充分な水分補給が欠かせない。琥珀のアドバイスにより、世話をしてくる人達が把握しやすいように摂取水分量とお手洗いの記録表を付けているのだ。<br />長女である私が居ながら、紗香さんには申し訳ないな。<br />「パパ、紗香さんにワガママ言わないでよ～？ね？」<br />「はぁ！あの気の利かない嫁に、なんで俺が遠慮せにゃならんのだぁ！」<br />「はいは～い、娘にお嫁さんの悪口こぼすなんて、高倉会長、人間が小さいぞ～ぉ？」<br />「うるさい！余計なこった！」パパはさらに大声を張り上げた。「俺は疲れた。週末からちょっと骨休め行って来るからな。札幌あたりに」<br />「パパ～ぁ！骨休めにお馬さん達を見に行くワケ？私まだ動けないから、来週にしてくれない？そしたら泊まりに行くから。ねぇ？」私はママの身を考え、やんわりと提案した。<br />「うるせぇ！留璃子、一々俺に指図するな！紗香も居るんだし、お前は神経質すぎるんだ！」<br />「パパ、でも. . . 」<br />「じゃあ、看護婦雇ってやる」<br />「本当？パパありがとう！！」<br />資格を持った看護婦さんがママの側に居てくれるなら安心だ。私は気をつけてと、パパを見送る言葉を口にした。<br /><br /><br /><br />週末、安静にしていようと渋る祐輔を説得し、実家に連れて行ってもらった。まだ、シャワーしか許されておらず、腹圧のかかる動作は厳禁だった。ママの顔を見るだけで、絶対<a href="http://blog.fc2.com/tag/%B2%F0%B8%EE" class="tagword">介護</a>を手伝わないと約束するとようやく祐輔は頷いたのだ。<br /><br />「あれ？誰も出ない」<br />呼び鈴を押しても反応せず、私は預かっていた鍵で家に入った。<br />「こんにちはぁ！！」祐輔も後に続く。<br />手にはママの好き大きな桃を持っていた。柔らかくて食物繊維が豊かなので、食べてもらおうと良い品を探して来たのだ。<br />「瑠璃！僕、桃冷やしておくね！」<br />. . . . . . 祐輔にしては気が利くじゃない？<br />「ありがとう、祐輔！」<br />私はママの部屋の扉をノックすると呼びかけてみた。<br />「留璃子だよ～ぉ！ママ、入るからね？」<br /><br />目に入った風景に私は息が止まった。<br /><br />電動式のシャッターの降りた部屋は薄暗く、ベッドの枕灯がわずかに横たわるママの痩せた顔を照らしていた。閉め切った部屋に籠る臭気と熱。<br />「ママ？ママ？」<br />十月とはいえまだ日中の気温は高い。なのに空調からは暖かい空気が吹き出していた。<br />私は近づいてそっとママの顔に触れた。皮膚は、熱いのにとても乾いていた。<br />「ママ？. . . 眠ってるの？」<br />そっと揺すって見るが反応が無い。唇はかさかさでひび割れ、ほの暗い灯りの下でも血の気の無い顔色が見て取れた。<br />ふとベッドに付いた手に暖かさが伝わる。<br />. . . . . . 電気毛布が付いてるの？息苦しいほどのこの部屋で？<br />「瑠璃？. . . わっ！何この匂い！」追いついた祐輔が思わず叫んだ。<br />「. . . 祐輔」<br />私は背後に立った祐輔をすがる思いで見つめた。<br />「ママ、意識が、な、い. . . . . . 」<br />どうして？どうして？<br /><br /><br />救急車に乗り込んだ私は搬送中に隊員から声を掛けられた。<br />『おむつ、いつから取り替えてないの？あんたお嫁さん？』<br />私はのろのろと首を振った。<br />『ふん、娘さんか。で、お母さん、いつから意識無いの？』<br />再び首を振る。<br />『解らないって？ちょっと、あんた. . . ハァ』大きなため息を付くと、彼はそれきり黙り込んだ。<br /><br /><br />救急病棟の待ち合いに立っていた私は、肩をポンと叩かれた。<br />琥珀だった。<br />そっと私の腕を取ると近くの椅子に座らせ、琥珀は近くを通る看護婦を呼び止めた。一言二言かわすと、そのまま一緒に処置室に入って行った。<br /><br />一足遅れて祐輔が玄関から姿を表す。車で救急車の後を追って来たのだ。<br />「瑠璃？大丈夫？」私の隣に座ると手を握った。「琥珀君の車あったけど、僕より先に着いたんだね？黒曜君と金剛君に連絡取れたよ」<br />私が頷くと祐輔は言いにくそうに付け加えた。<br />「パパの携帯. . . 電源入ってないみたい」<br /><br />現実感のない時が過ぎて行く。<br />ふわふわと、物語の舞台を上から眺めているみたい。自分の役を演じている役者と、相手をする役者のセリフが、ぼんやりと頭に流れ込んできた。<br /><br />『高倉さんは、再び<a href="http://blog.fc2.com/tag/%C7%BE%B9%BC%BA%C9" class="tagword">脳梗塞</a>をおこされました。それから脱水症状もひどく、腎不全のため意識が混濁しています』救急外来の医師は一言づつ琥珀の表情を確認した。『人工透析の必要が. . . あると思われます』<br />日曜の夜、見舞いを終えて帰る人々と見送る患者の姿が、扉にはめられたガラスから見えた。<br />『ご存知のように、人工透析には近親者のサインが必要となりますが. . . ？』若い医師である琥珀に向かって、さらに若い医師が遠慮がちに告げた。<br />『琥珀？私達がサインすれば良いの？』私は聞いた。<br />早く早くママを助けて！<br />『. . . 親父が、するとこだ』<br />『琥珀兄ィ？親父掴まんないんだぞ！どうすんだよ？！』金剛は兄に食って掛かった。<br />『同居家族なら、黒曜でも良いんじゃないの？』私はもう一人の弟の名を挙げた。『四国からの最終に間に合うって言ってたんでしょ？黒曜なら. . . 』<br />『留璃子ネエ。金剛』琥珀は私を見つめ、弟を愛称ではなく名で呼んだ。<br />『何だよ？』金剛もその雰囲気を感じ取ったようだ。<br />『お袋の梗塞は脳全体に渡っている。薬で脳圧が下がっても、動けるまでは回復しないだろう』淡々と語った。『臓器も全体に弱ってる。腎臓だけでなく心臓の動きも弱っている』<br />『嘘だぁ！』金剛。<br />『今夜にでも急変するかもしれない。覚悟をしておけ』<br />『琥珀兄ィ！』金剛は自分より背の高い兄に、体ごとぶつかっていった。『何とかしろよ！！琥珀兄ィ、医者だろ！ママ助けろよぉぉ！！』<br />『コンちゃん』祐輔が金剛の手を取った。<br />『どうして？どうしてだよ. . . ？』せっかく良くなったのに、退院できたのにと金剛は繰り返しつぶやいた。<br /><br />私も心のなかで繰り返した。どうして？どうして？どうして？<br /><br /><br /><br />人工透析をする前、翌朝にママは息を引き取った。<br />閉じきらない瞼を薄くあけていたママは、ハっと大きな呼吸を一つすると永遠にその目を閉じた。<br />目の前にいる私はなすすべもなく、生命時装置の立てる警告音を聞いていた。<br /><br />『ママぁぁぁ. . . ぁぁああああぁあぁあぁあ！！』<br />金剛は握ったママの手を振り、悲鳴を上げた。<br />『. . . . . . くっ. . . うぅ. . . うっ. . . ぁ. . . . . . 』琥珀はその大きな体をガバっとベッドに伏せ、堪えきれない嗚咽を漏らした。<br />隣に座る黒曜も、椅子を蹴倒すように立ち上がるとママに覆いかぶさった。<br />『うぁうぁうぁぁあ、うあっ、うっ、あっ、うううああああ. . . 』<br />『っママが. . . 瑠璃. . . あああぅぁぁぁあっあっああ. . . 』祐輔は私を後ろからギュと抱きしめた。全身の震えが体を伝う。<br /><br />コン、そんな泣きかたして、まるで赤ちゃんみたいだよ。<br />琥珀が泣くの見たのいつ以来だろ. . . 木から落ちた幼稚園の頃だっけ。<br />黒曜の大きな体でママつぶれちゃうよ。大きな声もうるさいって。<br />祐輔の泣き声、私の頭に響いて来てるよ。ぐぅわんぐぅわん。<br /><br />私はホロホロと頬を伝う涙を感じながら身動き一つせずに腰掛けていた。<br /><br /><br /><br />パパが姿を表したのは次の日だった。<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><span style="font-size: 80%">拍手やコメント頂けたらものスゴクものスゴク嬉しいです！！！</span> ]]>
</content:encoded>
<dc:subject>連載小説</dc:subject>
<dc:date>2008-03-19T05:37:05+09:00</dc:date>
<dc:creator>kyorori</dc:creator>
<dc:publisher>FC2-BLOG</dc:publisher>
</item>
<item rdf:about="http://kyororinovel.blog31.fc2.com/blog-entry-96.html">
<link>http://kyororinovel.blog31.fc2.com/blog-entry-96.html</link>
<title>シーン6-10 &quot;グラスオブハウス&quot;</title>
<description> ＊警告＊このブログには自殺、流血、薬物、飲酒、精神病治療のシーンが含まれます。自己の責任で対処できる方、小説と現実の区別がつく方のみ閲覧して下さいママの容態を心配した姉弟の間で当初転院を検討した。この地方で随一の尾張大学付属病院、琥珀の勤務先にだ。しかし、先進医療を研究する大学病院の性質上、脳梗塞患者のリハビリには限界があるのだという。つまり難治性の高い病でない人は早々に退院させる方針なのだ。名東
 </description>
<content:encoded>
<![CDATA[ <font color="red"><br />＊警告＊このブログには自殺、流血、薬物、飲酒、精神病治療のシーンが含まれます。自己の責任で対処できる方、小説と現実の区別がつく方のみ閲覧して下さい</font><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br />ママの容態を心配した姉弟の間で当初転院を検討した。この地方で随一の尾張大学付属病院、琥珀の勤務先にだ。<br /><br />しかし、先進医療を研究する大学病院の性質上、<a href="http://blog.fc2.com/tag/%C7%BE%B9%BC%BA%C9" class="tagword">脳梗塞</a>患者の<a href="http://blog.fc2.com/tag/%A5%EA%A5%CF%A5%D3%A5%EA" class="tagword">リハビリ</a>には限界があるのだという。つまり難治性の高い病でない人は早々に退院させる方針なのだ。<br />名東病院は市民病院にしては『マシ』. . . 琥珀が言うには、らしく実家から近い事もあり入院を続けることとした。<br />幸い優秀な理学療法士による<a href="http://blog.fc2.com/tag/%A5%EA%A5%CF%A5%D3%A5%EA" class="tagword">リハビリ</a>の結果、ママは回復の兆しを見せていた。<br /><br /><br />小さな双子を抱えた紗香さんは、疲れ果てた様子だった。<br />「紗香さん。疲れてるよね？ごめんね。私、明日は有給取ったから、紗香さんは病院に来ないで家に居てね」<br />「あ、ありがとう. . . 留璃子姉さんは、大丈夫. . . ？」紗香さんは疲れた顔で言った。<br />その時もぞもぞとママが身動きをした。<br />「あ、ママ？お手洗いなの？」私は麻痺に歪んでしまったママの顔を見た。<br />微かに返事をくれた。<br />「わかったよ。じゃ、まず左手でバーを掴もうか？」私はママの左手を介護用ベッドのバーに誘導した。<br />医師や理学療法士によると、完全に麻痺したと思われていた右半身も、脳血管の梗塞が除かれたことにより多少は回復すると言う。左半身の麻痺は軽いもので機能はしており、本人が左の知覚を認識すればまだまだ回復するだろうと予測していた。<br /><br />「ママ！頑張ろうね？大変だけどちゃんと治るように、<a href="http://blog.fc2.com/tag/%A5%EA%A5%CF%A5%D3%A5%EA" class="tagword">リハビリ</a>！<a href="http://blog.fc2.com/tag/%A5%EA%A5%CF%A5%D3%A5%EA" class="tagword">リハビリ</a>！」力の入らないママの手を上から支え、指導通り背中を起こさせる。<br /><br />その後ベッドに腰掛けた状態で足を降ろし、<a href="http://blog.fc2.com/tag/%A5%EA%A5%CF%A5%D3%A5%EA" class="tagword">リハビリ</a>用の脱げない靴を履てい個室のトイレまで歩くのだ。そこでもママの左手を補助バーに添えてやり、下着を脱がせ便座に腰掛けさせる。介護する人間は麻痺した右側に立ち、ママのパジャマの後ろを掴んで支え一歩一歩進んで行く。ママの全身をグッタリと芯を失っているのでかなりの力を必要とした。<br />一度お手洗いを往復するだけで、ママも介護する人間もクタクタだ。<br />それでも看護婦さんが相手の時は返事もせず、全く体を動かそうとしないママが、私には反応を見せてくれる。<br />寝たきりにさせない為にも、一回一回の用足しが重要な<a href="http://blog.fc2.com/tag/%A5%EA%A5%CF%A5%D3%A5%EA" class="tagword">リハビリ</a>だと教えられた。<br /><br />ママは笑顔どころか言葉さえ出さない。私は、愚痴でも良いからママに話してほしかった。ママの声はちゃんと出るのだけれど、話す事を放棄してしまっていた。<br />. . . . . . だけど私は諦めないからねママ！希望があるなら頑張れる。<br /><br /><br /><br />生理が始まり、私はお馴染みとなった痛みと闘っていた。夕べから突如激しくなった痛みで、額には脂汗がにじむ。処方薬を飲んでも全く効果はなく座薬まで使い横になるが、狭い付き添い用のベッドでは楽にならなかった。ズクンズクンと脈打つ痛みは、お腹、腰どころか、足の付け根にまで広がっった。<br />. . . 生理不順なのも、痛みに関係あるのかも知れない。来週、ママの病室に寄る前に診察を受けた方が良いかのな？<br />また妊娠できなかったとがっかりする気持ちを、こんな時だから逆に良かったのだと自分を慰めた。<br /><br />「留璃子ぉ！！」パパは部屋に入るなり大声を出した。<br />「お早うパパ。私、耳遠くないよ」<br />「はぁ？」<br />「こんなに狭い部屋で叫んでもらうほど年とってません！」ピッチピッチなんだからとおどけて見せた。<br />「ははは！朝から元気な奴だなぁ」<br />パパは私と話がしたくなると、こうやって早朝に病室を訪れるのだ。どこで手に入れるのか、こんな時間だというのに小さなお重のお弁当とお茶を持参している。小さな包みを一つ私の手にポンとくれた。<br />「留璃子。特別室に替わるぞ」パパは小さなソファーに座った。<br />「え？この神経内科の病棟から移動できないんじゃなかったの？」<br />「はははぁ、俺が言えばこんな病院の婦長くらい！」<br />. . . . . . ありゃ～！<br />また、無茶言ったんだろうな？後から謝りに行かなきゃ。琥珀に頼もうかな？<br />「パパ、私ちょっと体調が良くないの」パパの顔色を伺いながら、私は話をした。「悪いけど、明日は家で休みたいんだけど. . . ？」こうやって普通の顔をして会話するのも辛い。<br />. . . 私ってこんなに痛みに弱かったんだ？情けないな。<br />「ああ、じゃ紗香に来させる」<br />「パパ。紗香さんは無理だよ。子供達が水疱瘡なんだもん」<br />「はあ？」<br />「紗香さんを通して、ママにうつったら困るでしょ？パパにだってうつるかもよ？」<br />「. . . じゃ、琥珀に来させるか？」<br />「琥珀は医者だよ？勤務を外せる日なら来てくれるけど、今週末は当直だって」<br />「黒曜は駄目だぞ。入札前だからな」パパはふんぞり返って言った。<br />「パパ～、椅子に座ってるだけだから居てくれない？」<br />「お前、俺に付添婦やらせようっていうのいか！」<br />「部屋の引っ越しは看護婦さんが全部やってくれるから. . . 」<br />「この親不孝者！」<br />「. . . 私、本当に辛いんだけど. . . 」尋常ではない痛みについ弱音を吐く。<br />「じゃあ、紗香に来させる！」パパはブスっとした表情で弁当を開けた。<br />議論は堂々巡りしそうだ。<br />「わかった私来るから、紗香さんには無理言わないでよ？ね、パパ？」痛む腰をさすりながら言った。<br /><br /><br /><br />部屋の引っ越し準備は簡単だった。荷物は全て看護婦さんが運んでくれる。<br />ストレッチャーに横たわり移動するママの側で声を掛けながら、一緒にエレベターに乗り来んだ。<br />最上階の特別室は木目のベッドとプリント柄のカーテンのある、ミニキッチン付きの広い部屋だった。<br />ママの下に敷かれたシーツを両側から皆で持ち上げ、ストレッチャーからベッドへいどうさせるのだ。<br />私も手伝おうとシーツの足元部分を掴んだ。<br />「ああ、スイマセン！ありがとうございます！」若い看護婦さんは私を見て頭を下げた。「じゃ、行きますよせーの！！」<br />掛け声に、皆で力を合わせシーツをママごと持ち上げる。<br />瞬間。<br />. . . っつ. . . ！！<br />私は息が詰まるかと思うほどの激痛を感じた。<br />あまりの痛みに、膝から崩れ落ちる。<br />「大丈夫ですか！！」看護婦さんの声。<br />「. . . っ. . . だ、い、じょう. . . 」私の額には冷や汗が流れ、痛みに目の前が暗くなった。<br />「どうしました？」隣に居た看護婦さんがうずくまる腕を取った。<br /> . . . . . 痛い、触らないで、痛い. . . . . . 。<br />「ねえ！付き添いの人、どうかしたの？」<br />「顔が真っ青. . . ちょっとこの人ショック状態じゃ. . . 」<br />激しい痛みに吐き気すら覚える。<br />ああどうしよう？ママに心配かけちゃう。気持ちは焦れど、波のように押し寄せる痛みに体は言う事を効かない。それは陣痛に似た痛みだと知ったのは、もっと後になってからだった。<br /><br /><br /><br />激しい痛みの原因の一つは右<a href="http://blog.fc2.com/tag/%CD%F1%C1%E3%C7%BF%BC%F0" class="tagword">卵巣膿腫</a><span style="font-size: 80%">注1</span>が破裂したためだった。<br /><br /><br />『破裂した右卵巣だけなく、左卵巣にも卵管がくちゃくちゃに捻れて巻き付いていました。子宮と卵管、卵巣の癒着はひどく、腸の一部にも軽い癒着が見られました』<br />硬膜外麻酔横を背中に繋げている私は、ベッドに横向きに寝たまま医師の説明を聞いていた。<br />『破裂した膿腫を持った状態で強烈に捻れたんですね。腹膜炎を起こしかけていましたよ。. . . 良く痛みを我慢できましたね？』医師は半ば関心したように言った。<br />『出血もかなりありましたよね？高倉さん、あなたもう少しで手遅れになる所でしたよ』<br />一緒に医師の話を聞いていた祐輔の手が私の手を握り込んだまま震えた。<br />『椙山さんが生理不順だと思ってたのは<a href="http://blog.fc2.com/tag/%C0%DA%C7%F7%C1%E1%BB%BA" class="tagword">切迫早産</a>の出血です』<br />私は目をつぶり医師の話を飲み込もうと努力した。<br />『なんとか左卵巣は残そうと努力しましたけれど、至りませんでした』<br /><br /><br />私は医師が去った後もずっと目をつむっていた。お腹と腰、足の付け根の辺りが恐ろしく痛み、体中が強ばっていた。高熱があるらしく、看護婦さんが持って来てくれた氷枕と氷嚢を当てていた。<br />「瑠璃ぃ？. . . 寝ちゃった？」祐輔は小さな小さな声で囁いた。<br /><br />私は声が出せなかった。<br />今声を出したら泣き叫んでしまうだろう。<br />激しくなる痛みに、首筋を汗が伝った。私は看護婦さんに教えられた通り、痛みを取り除く硬膜外麻酔のスイッチを押す。<br />その仕草に祐輔は再び声を掛けた。<br />「瑠璃？痛いの？. . . 瑠璃？」言いながら冷やしたタオルで私の額や首筋を拭ってくれる。「可哀相に瑠璃. . . 瑠璃、瑠璃. . . 」<br />祐輔は時間が許す限り側に居てくれた。優しく髪を撫でたり、私の手を握ったままうたた寝していた。<br /><br /><br />私はこの優しい人の子を産めなかった。<br />私はこの愛しい人の子を産めなくなった。<br /><br />溢れ出す涙をこらえられずに目を瞑ったまま、声を出さずに泣き続けた。<br /><br /><br /><br /><span style="font-size: 80%">注1<a href="http://blog.fc2.com/tag/%CD%F1%C1%E3%C7%BF%BC%F0" class="tagword">卵巣膿腫</a>　子宮内膜症の一つで卵巣内に出血を起し血液が溜まったもの。4センチ～レモン大の大きさで破裂するリスクを負い、激しいショックを起こす。</span><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><span style="font-size: 80%">拍手やコメント頂けたらものスゴクものスゴク嬉しいです！！！</span> ]]>
</content:encoded>
<dc:subject>連載小説</dc:subject>
<dc:date>2008-03-18T06:33:43+09:00</dc:date>
<dc:creator>kyorori</dc:creator>
<dc:publisher>FC2-BLOG</dc:publisher>
</item>
<item rdf:about="http://kyororinovel.blog31.fc2.com/blog-entry-95.html">
<link>http://kyororinovel.blog31.fc2.com/blog-entry-95.html</link>
<title>シーン6-9 &quot;グラスオブハウス&quot;</title>
<description> ＊警告＊このブログには自殺、流血、薬物、飲酒、精神病治療のシーンが含まれます。自己の責任で対処できる方、小説と現実の区別がつく方のみ閲覧して下さいタヤマ病院を退院してからもうすぐ一年になる。季節は冬から春へ、夏から秋へ、そしてまた冬が訪れた。若い小笠原医師は毎回同じ質問を繰り返す。「睡眠は取れていますか？」「お食事は？」「お通じは？」「変わったことは？」そして私も同じ答えを返す「はい変わりはありま
 </description>
<content:encoded>
<![CDATA[ <font color="red"><br />＊警告＊このブログには自殺、流血、薬物、飲酒、精神病治療のシーンが含まれます。自己の責任で対処できる方、小説と現実の区別がつく方のみ閲覧して下さい</font><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br />タヤマ病院を退院してからもうすぐ一年になる。季節は冬から春へ、夏から秋へ、そしてまた冬が訪れた。<br /><br />若い小笠原医師は毎回同じ質問を繰り返す。<br />「睡眠は取れていますか？」「お食事は？」「お通じは？」「変わったことは？」<br />そして私も同じ答えを返す「はい変わりはありません」と。<br /><br />小笠原医師は<a href="http://blog.fc2.com/tag/%B9%B3%A4%A6%A4%C4%BA%DE" class="tagword">抗うつ剤</a>と<a href="http://blog.fc2.com/tag/%CC%B2%BA%DE" class="tagword">眠剤</a>の服用量を減らない。<br />何故だろう？<a href="http://blog.fc2.com/tag/%A4%A6%A4%C4%C9%C2" class="tagword">うつ病</a>の底からずいぶん回復している実感があった。日常生活もそれなり過ごせている。<br />. . . . . . 前科が、医師を慎重にさせる？私が二度の自殺を図っているから？<br />それとも<a href="http://blog.fc2.com/tag/%CE%D7%BE%B2%BF%B4%CD%FD" class="tagword">臨床心理</a>の多岐川先生から上がる面談の内容を聞いて、減薬を思いとどまっているのだろうか？<br /><br /><br /><br /><br />パパは、要求を拒否した私を許さなかった。<br />土地引き渡しを求め凄まじい数の電話があった。私だけではない、祐輔の携帯はおろか、弟達にまで圧力をかけているらしい。皆、私を慮って何も言わないでいてくれるが、マンションの駐車場で待ち伏せたパパの口から漏れた暴力的な言葉の端から伺えた。<br /><br />私名義の貸金庫に預けてあった登記簿によると、土地はお爺ちゃんの生前に、既に私の名義に書き換えられていた。固定資産税はママが払っていてくれたらしい。ママの死後に口座が凍結されたため税の請求が私の元に転送され初めて知ったのだ。<br /><br />パパと私達姉弟は、いくつかの土地建物等の不動産を自分名義としている。しかし全て高倉建設とその親族会社に管理運用を預け、実質パパの資産だった。<br /><br />名古屋市内でも最も開発の遅れた南の丘陵地帯でのんびりと農業を営んでいたお爺ちゃんは大きな地主だった。と言っても何も無い果てしない荒れ地を、お爺ちゃんと大お爺ちゃん、お婆ちゃんの家族だけでコツコツと耕し作ったそうだ。<br />『採れたのは人参くらいだなもぉ』お爺ちゃんの口癖だった。<br />大きな田舎作りのお家は庭に鶏が放し飼いになり、柿の木や無花果の木があった。はしご階段で登る屋根裏は、子供にとってワクワクとした探検ごっこだった。何よりお爺ちゃんのお家に行くとママが笑ってくれるのが好きだった。<br />中学生になりお爺ちゃんの居なくなった家に引っ越すと、そこはパパに手により近代的に住みやすく改修されていた。けれどママの笑顔は消えてしまった。<br /><br />パパは一度失敗した事業を、お爺ちゃんの土地を元手に成功させた。<br /><br /><br /><br /><br />「私は商業デザインの仕事が好きでした」思い出すと未だに胸に火が灯るようだ。<br />「主人と結婚してからも、以前と変わりなく仕事を続けていました。主人の仕事もかなりのハードワークでしたが、朝食と週末は必ず一緒に過ごしました」<br />どうやって仕事と家事を両立させていたのか思い出せない。<br />. . . 家事の腕はともかくとして、子供の頃から積み重ねた手際の良さでなんとか回していたのだろう。<br />「椙山さん、ずいぶん頑張られたんですね？」多岐川先生は大きく頷いた。<br />彼女の相づちには<a href="http://blog.fc2.com/tag/%CE%D7%BE%B2%BF%B4%CD%FD" class="tagword">臨床心理</a>士としてだけではなく、同じ働く女性としての共感が込められていた。<br />「. . . . . . 結婚二年目だったでしょうか？. . . 病気知らずだったのに、痛みを自覚したのは. . . 」私はしばし躊躇うと重い口を開いた。「生理痛だって思ってました。私も人並みに生理痛を感じるようになったんだなぁ、と. . . 」<br />「でも毎日痛みを感じて出血も酷くなったので、婦人科を受診しようと. . . 子供、欲しかったので、何かあったらと考えまして. . . そしたら卵巣膿腫があり<a href="http://blog.fc2.com/tag/%BB%D2%B5%DC%C6%E2%CB%EC%BE%C9" class="tagword">子宮内膜症</a><span style="font-size: 80%">＊注1</span>と診断されました」<br />左右にあった卵巣膿腫は<a href="http://blog.fc2.com/tag/%A5%C1%A5%E7%A5%B3%A5%EC%A1%BC%A5%C8%C7%BF%BC%F0" class="tagword">チョコレート膿腫</a>と呼ばれるもので、その時は5～6センチの大きさだった。<br />「医師が言うには、三十二って年齢を考えると、子供を作っちゃうのが良いよと言われました。妊娠出産が内膜症の治療になるってアドバイスされたんです」<br />そのクリニックは<a href="http://blog.fc2.com/tag/%C9%D4%C7%A5%BC%A3%CE%C5" class="tagword">不妊治療</a>でも有名な医師が経営していたので、そのまま通院する決心をした。<br />「幸い、排卵や、卵管通水検査、各種ホルモン検査の結果は良好でした」<br />祐輔の精子検査もしごく健康と告げられ、ホっとしたのを覚えている。結果を聞きに行った時の祐輔の顔ときたら！男っていざとなると弱いものだと思った。<br /><br />それから私は毎朝基礎体温を測り、デジタルの排卵日記を付けた。<br />卵巣から排卵された卵子は卵管を通る。上手く受精卵になった後、子宮に着床すれば、それが妊娠の始まりだ。<br />次の生理日までの間を、私は胸をドキドキさせながら過ごした。もしかして新しい命が私の中に居るかも知れない？と考えるのは、目眩がしそうなくらい幸せだった。<br /><br />「母が倒れたのはその直後、私たちの結婚二年周年の日でした」<br />あの季節外れの暑い日。<br /><br />ママが<a href="http://blog.fc2.com/tag/%C7%BE%B9%BC%BA%C9" class="tagword">脳梗塞</a>で倒れ名東市民病院のICUに運ばれたと連絡があったのは、出社直後の打ち合わせ中だった。<br />名東市民病院のICU扉前にはパパと双子を連れた紗香さんがいた。<br />「ママ、ママ、は. . . ？」地下鉄の駅から走って来た私は息を切らせていた。<br />「留璃子姉さん！」紗香さんは立ち上がった。「お母さん、意識が無くて. . . お風呂場で倒れてたんです！朝、子供達をバスに乗せて行ってくれるのに、今日は2階に上がって来ないと思ってたら. . . 」取り乱した口調で答える。<br />「るりねちゃん。ばあちゃん、おふろでねてたぁ！」幼稚園のスモックを着たままのマイちゃんが無邪気に報告した。<br />「おふろでねてたよぉ」そっくりな顔の妹マヤちゃんが繰り返す。<br />「お風呂って、まさか夕べから. . . ？」私はショックを受けた。<br />「. . . 多分」<br />紗香さんは腕組みして座っているパパをチラリと見た。<br />「パパ？ママは. . . 」<br />「あの馬鹿は、得体の知れない薬なんて飲みやがって！あの薬のセイであんなになったに違いなねぇ！！」いきなり怒鳴りだした。<br />「パパ？薬って、冷え性の漢方のこと言ってるの？」ママは冷え性と肩こりを緩和する緩やかな漢方を医者で処方してもらってい、ここ数年服用していた。「ねえパパ、それって医者が言ったの？漢方薬が関係してるって？」<br />「うるせぇ！！ヤブ医者になんて解るかぁぁあ！！」<br />「パパ静かに。ねぇ静かにして？」私は必死で宥める。<br />ICUの出入り口の待ち合いには、重傷患者の家族が疲れた顔をして座っていた。紗香さんの手を握っていた双子も、パパの剣幕に恐れをなしてベソをかきだす。<br />「おい！ちび達、静かにさせろ！」パパは紗香さんに向かって顎をしゃくり上げた。<br />「紗香さん。マイちゃんとヤマちゃん、幼稚園に連れて行ってあげて。ここには私が居るから」<br />私が言うと彼女はホっとして子供達を連れて行った。<br /><br /><br />IUCの面会時間になり、ようやくママに会えた。<br />小さな体中にチューブが繋がり、心電図がピィピィと小さな音を立てていた。全く意識がないように見えるけれど、耳元で呼びかける私の声に微かに反応した。<br />. . . ママ、ママ生きてる、ママ. . . 。<br />「このぉ馬鹿女ぁ！馬鹿目がぁぁ！」ママの顔を見るなりパパは悪態をついた。<br />私が注意する前に看護婦さんがスっと歩み寄る。<br />「静かに願います。ここは重傷患者さんばかりですので」<br />「はぁ？！どうせ死にかけの奴らだ、何言っても聞こえ. . . 」<br />「パパ」私は悲鳴を上げそうになる自分を押さえ、パパの腕を掴むと耳元で言った。「パパ。ここには私が居るからパパは帰って休んで？」<br />「留璃子ぉ！てめぇも俺を追い出すつもりか！」<br />「パパ。ママと違ってパパが倒れたら会社どうなちゃうの？パパは大切な体でしょ？」<br />「ふん！」パパは私の腕を振り切ると、注意をくれた看護婦さんを睨みつけていから部屋を出て行った。<br />私は頭を下げて迷惑を掛けたことを詫びると、時間の許す限りママ手を取っていた。<br /><br /><br />IUCで一週間過ごした後、ママは一般病棟に移った。一時は脳幹部分を圧迫している血腫の切開手術も検討されたが、点滴薬の投与で奇跡的に回復したのだった。しかし右半身は完全に麻痺し左側にも痺れが残った状態だった。背を立てたベッドに座る姿勢を取るのでさえ力が入らず崩れ落ちてしまう。<br />言葉を発することはもちろん、食事を飲み込むことも難しく、咽せては苦しんだ。ママの目も耳も半分は機能していないと医者から告げられた。<br /><br />それでもママは生きている。<br />私は取れるだけの休暇やフレックスをやり繰りして、出来るだけママの側に居た。早々に仕事を切り上げ市民病院に直行するとそのままママの病室で眠った。朝、朝食とママの身の回りの世話をしてから出社した。<br /><br />ノートパソコンを持ちこみ、夜中に暗い病室で片付けきれない仕事をこなした。手を休めてはモニターの灯りでわずかに照らされるママの寝顔を見て無事を確認した。上司や同僚は私に十分な配慮をくれたが、プロジェクトが始まったばかりの現場リーダーとして仕事を放り出す訳にはいかなかった。何よりこのプロジェクトチームの人事移動直後で、人材自体が圧倒的に不足していた。私が休めば誰かが穴埋めをしなければならなず、その負担は大きい。<br /><br />昼間は双子を幼稚園に送った紗香さんや、それぞれの仕事を抜け出せした弟達が病室に顔を出してくれた。<br />そしてパパは、パパは、怒っていた。<br />ママが倒れた事実に対して、理不尽な怒りを持っていた。それは体の麻痺した妻に、娘の私に、息子達に、義娘と孫に、医師や看護士に向けられた。<br /><br /><br /><br />ママの病室に泊まり込むことは平気だったけれど、祐輔に会えない日が続くことが寂しかった。<br />「瑠璃、大丈夫？ね、僕がママに付き添うよ？瑠璃、家で休みなよ」祐輔は気遣わしげに私を見た。<br />定時で仕事を終えると一時間も高速道路を飛ばし、三河の地にあるタヤマ自動社かから名古屋市内の名東病院までしばしば来てくれた。祐輔だって忙しい、新車の開発チームにいるのだから。<br />「ありがとう、祐輔」それでも私は祐輔の顔を見るとホっとできた。「私、人の面倒見るの慣れているから」<br />「瑠璃。週末は僕も瑠璃と一緒にママの側に居るからね」祐輔はママの手を握る私の手に自分の手を重ねた。<br /><br />面会時間が終わるまでのわずかな温もりが私の支えだった。<br /><br /><br /><br /><span style="font-size: 80%">注1妊娠準備の為に排卵日から子宮の内膜は徐々に厚くなる。妊娠されずにその内幕が排出されるのが月経。本来は子宮の内側のみである出血が、内蔵等の各位表面に見られる症状が<a href="http://blog.fc2.com/tag/%BB%D2%B5%DC%C6%E2%CB%EC%BE%C9" class="tagword">子宮内膜症</a>。臓器の表面に炎症を起こし、本来のすべすべとした状態へ戻そうと治癒する働きが、逆に臓器を癒着させ痛みを引き起こす。ダグラス窩の癒着は発見しにくく痛みも強い。原因は不明。</span><br /><br /><br /><br /><br /><br /><span style="font-size: 80%">拍手やコメント頂けたらものスゴクものスゴク嬉しいです！！！</span> ]]>
</content:encoded>
<dc:subject>連載小説</dc:subject>
<dc:date>2008-03-17T07:51:14+09:00</dc:date>
<dc:creator>kyorori</dc:creator>
<dc:publisher>FC2-BLOG</dc:publisher>
</item>
<item rdf:about="http://kyororinovel.blog31.fc2.com/blog-entry-94.html">
<link>http://kyororinovel.blog31.fc2.com/blog-entry-94.html</link>
<title>シーン6-8 &quot;グラスオブハウス</title>
<description> ＊警告＊このブログには自殺、流血、薬物、飲酒、精神病治療のシーンが含まれます。自己の責任で対処できる方、小説と現実の区別がつく方のみ閲覧して下さいオーストラリア旅行は今回で６度目、ケアンズ滞在は４度目になる。信じられないことに、空港に向かう列車の中で私は緊張していた。祐輔は日常英会話が出来る。常備薬の抗うつ剤と眠剤はちゃんと処方箋付きだ。滞在先のシェラトン・ミラージュ・ポートダグラスは既に三回目の
 </description>
<content:encoded>
<![CDATA[ <font color="red"><br />＊警告＊このブログには自殺、流血、薬物、飲酒、精神病治療のシーンが含まれます。自己の責任で対処できる方、小説と現実の区別がつく方のみ閲覧して下さい</font><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br />オーストラリア旅行は今回で６度目、<a href="http://blog.fc2.com/tag/%A5%B1%A5%A2%A5%F3%A5%BA" class="tagword">ケアンズ</a>滞在は４度目になる。<br /><br />信じられないことに、空港に向かう列車の中で私は緊張していた。祐輔は日常英会話が出来る。常備薬の<a href="http://blog.fc2.com/tag/%B9%B3%A4%A6%A4%C4%BA%DE" class="tagword">抗うつ剤</a>と<a href="http://blog.fc2.com/tag/%CC%B2%BA%DE" class="tagword">眠剤</a>はちゃんと処方箋付きだ。滞在先のシェラトン・ミラージュ・ポートダグラスは既に三回目の訪問だ。<br />「瑠璃、僕が付いてるから大丈夫だよ」祐輔は笑いながら冷たくなって手を握ってくれた。<br /><br />お盆休みのスタート時期ともあって中部国際空港は凄い混雑だった。幸いビジネスクラスのチェックインカウンターは空いていた。手荷物検査を抜けると早速免税店へと向かう人たちの間をくぐり抜け、特別ラウンジに入室した。さすがにここも混んではいたけれど、窓際の飛行機の発着が見える席に座る事が出来た。<br />ミネラルウォーターを飲みながら暮れ行く空港を眺めていると、不思議に気持ちが落ち着いていった。<br /><br />サービスの良いビジネスのシートで、私は眠たさに負けてフルコースの食事の後半を断ってしまった。後で祐輔から美味しかったデザートの話を聞き、しまったと後悔したけれど遅い。<br /><br /><br />青い空。碧い海。白い波頭。熱帯の深緑。<br />深紅の水着を買った。<br />日焼けしすぎないよう日焼け止めの上からさらに大きなストローハットをかぶり、パラソルの下のビーチチェアに一日寝転がる。南半球に位置するオーストラリアは真冬だけれど、熱帯雨林気候の<a href="http://blog.fc2.com/tag/%A5%B1%A5%A2%A5%F3%A5%BA" class="tagword">ケアンズ</a>では冬がハイシーズンだ。<br />コテージから読みかけの本を持って戻った私に、祐輔がプールから手を振った。隣で白人の少年と母親らしい女性も気さくに手を振ってくれる。<br />祐輔らしい、もう知人を作ったようだ。<br />「ハブァラヴリィディ～！」人の良さそうな女性はニッコリと笑うと、少年を伴い去っていった。<br />「サンキュアンドユゥ！」祐輔は答え、隣のチェアに腰を下ろした私にニコニコと笑顔を見せた。<br />その眩しい少年の表情に、胸の奥がホワンとする。<br />「あの人たちと世界遺産に観光に行くかって話してたんだ」祐輔は説明した。<br />「へえ～そうなんだ」<br />「あの男の子は砂漠をサンドバキーで走りたいんだって！」<br />「ふふ、で、お母さんは嫌だって？」<br />「うん！すごい瑠璃なんで解ったの？」祐輔は目を丸くした。<br />そりゃ、あのエレガンスなお母さんはどう見ても野生派って感じじゃないもの。<br />「祐輔あの男の子と二人で行って来たら？」私は誘い水を掛けた。<br />「え？瑠璃は？」<br />「私はここで昼寝」と、プールサイドをグルっと手で指し示す。<br />「瑠璃が行かないなら僕も行かない」<br />「あっはは、でた～祐輔の口癖」<br />「だって瑠璃が行かないならつまらないし」祐輔は口を尖らせると、プールサイドバーのメニューペーパーに目を落とした。「瑠璃、お腹空かない？僕、フッシュアンドチップスでも食べようかな？」<br />「私ねぇ、アイスコーヒーとオペラケーキにしようかな～？」<br />祐輔はゲェっと言った。<br />ここで言うアイスカフィは日本のパフェみたいなもので、いわばお汁粉に大福餅みたいな組み合わせだった。ここ数年でスゴク痩せてしまったので、ちょっとくらい脂肪がついても構わない。厳しい日差しが陰り始めたらプールで一泳ぎするのも良い。<br /><br />私はあまり忙しい旅が好きではない。旅行に行ってまで朝から晩まで勤勉に観光するなんてごめんだ。素晴らしい美術館や壮大な世界遺産であればなおさら堪能したい。この八日間の旅は何の予定も立てていない。シーフードと堪らなく美味しいスイートを祐輔と二人、のんびり楽しんでいた。<br />明日あたりヘリでグレートバリアリーフの散歩と洒落こむのも良いかも知れない。朝起きて天気が良ければ申し込んでみようかな？<br /><br />昼食のメニューを話題に祐輔とたわいのない会話。のんびりとした時間が流れていく。<br />ああ、なんて穏やかなんだろう？誰も私を急かさない。祐輔の明るい本当に底抜けに明るい笑顔。<br />私はふいに胸が熱くなる。<br />と、祐輔がメニューから目を上げ私を見つめた。私の手を取ると指をからめ、そっと自分の頬に持って行く。<br />「瑠璃、幸せありがとう」<br />私は言葉に詰まり、ただ祐輔の手を握り返した。<br /><br /><br /><br /><br /><br />季節は秋。<br />なのに最高気温は30度を超える日が続いている。<br />それでも朝夕の涼しさを肌で感じるようになった。夜を彩る虫の音も聞こえた。<br />旅行以来、私は少し生活に自信のようなものがついた。どう変わったのか自分でも解らないが、不安に落ち込む時間が短くなり、よく笑うようになった。<br /><br />そして、より祐輔を大切に思うようになった。<br /><br /><br />あれほど多かったパパからの電話はパッタリとやんだ。<br />実家の雑用を頼まれないところを見ると、またどこかの女性とつきあいだしたのだろう。あの大きな家にパパ一人で住むのはさぞ侘しいこと思う。ママが死んで二年以上が過ぎた。パパの相手がこの先の人生を共にできるパートナーがであれば良いと願った。<br /><br /><br />黒曜は相変わらず妻である紗香さんと子供の元へは戻らず、東区のマンションでソヨンちゃんと暮らしていた。<br />先日、私は祐輔と共に紗香さんに会い話をした。彼女は以前のように泣き崩れることもせず、ただ黒曜を罵り続けた。私に、反論する言葉など見つかるはずもなく、ただ彼女の話を聞き、不肖の弟の行状を詫びた。<br />紗香さんの父親である高倉建設の渡辺専務も同席したけれど、行状の悪い婿に対して半ば諦めの気持ちを見せていた。黒曜が受け取る役員報酬の半額を生活費として紗香さんに渡していることを、私は初めて知った。<br /><br />紗香さんの怒りを受け止めた後、私は深く落ち込んだ。やはりと言うべきだ。しかし時間と共に徐々に痛みは薄れ、以前のように自分を取り戻せなくなることはなかった。<a href="http://blog.fc2.com/tag/%A4%A6%A4%C4%C9%C2" class="tagword">うつ病</a>特有の<a href="http://blog.fc2.com/tag/%B5%A4%CA%AC%CA%D1%C4%B4" class="tagword">気分変調</a>が次第に小さく安定してきたのだ。<br /><br /><br /><br />高倉建設ビルまで来いと、パパに呼び出されたのは秋も深まった頃だった。肌寒い朝だったので、私はバーバリーのトレンチのライナーを外し羽織っていった。<br /><br />パパは例のごとく唐突に切り出した。<br />「留璃子、アレだアレの書類どこだ？」<br />「え？」アレって言われても。<br />「ほら、梅の林の！あの地下鉄口の八百坪だ！今年中に更地にするからな！」<br />「. . . パパ、あの梅の木、お爺ちゃんの、桜も. . . どうするの？」<br />「ああ、あの梅と桜かぁ？でかくなりやがって、廃棄業者に頼むしかないなぁ！けど高くつくぞ、ありゃ！」<br />「. . . 切ちゃうの？」<br />「当たり前だろ！更地にするって言ってるだろうが！」<br />目の前でイライラとするパパの様子を見ながら、私は思い切って話を切り出した。<br />「. . . パパ、お願い。お爺ちゃんの土地を売るの、止めてくれない？」<br />「はあ？！売らずにどうするつもりだ？」<br />「. . . 公園に、公園にしてほしい。お爺ちゃんの梅や桜の木を残したままで」<br />「留璃子ぉ、馬鹿かお前は！！」みるみる機嫌は低下し私を睨みつける目が厳しくなった。「あんな所に公園造ってどうするつもりだ！一文の特にもならんぞ！」<br />「. . . 利益なんて、考えていない」<br /><br />あそこは子供の頃、お爺ちゃんの家に行くと遊んだ場所だった。春の訪れを梅の花で知り、桜が新学期を伝えてくれた。若葉が萌えるころ連休がやって来て、私の誕生日の前に赤く染まった葉が落ちカサカサと音を立てた。<br />『この梅の木は留璃子の婆ちゃんが嫁入りした時に、植えたもんだでなぁ』お爺ちゃんは歯の無いお口でふぉふぉふおと笑った。<br />『お婆ちゃん、お嫁さんだったの？』私はビックリして聞いた。<br />お爺ちゃんの右手は私、左手には黒曜がぶら下がっていた。琥珀はいつものように私の編んだ三つ編みを引っぱりながら後ろをついてきてた。<br />まばらな民家の中見渡す限り田畑の続く風景の中、ここだけは切り取られた絵のように梅の花が咲いていた。<br />白。桃色。紅。もっと濃い赤。<br />『おうよ留璃子ちゃん！爺ちゃんが赤ん坊だった頃もあるでよぉ』<br />『ええ！お爺ちゃんがぁ！赤ちゃんだったのぉ！』私達はびっくりした。だってお爺ちゃんはすごく年が大きいのに！いくつだっけ？六十よりもっと大きいんだっけ？<br />『そいでなも、桜の木は爺ちゃんが生まれたってんで、大爺が植えたもんだわ』<br />『ええ！！そんな大昔～？』すごいすごいを私たちは連発した。<br />『そうじゃ。それでなぁ留璃子達のママがしょちゅうここで遊びよったわ』<br />『ママがぁ！？』ママも遊んだ？<br />ああそうか、だからお爺ちゃんのお家に来ると、ママがいっぱい笑うんだね？ママの遊び場だったんだ！<br />『ふぉふぉふふ！留璃子も留璃子の子供達もここで遊べるよう、爺ちゃんがちゃんと残しといてやるでなもぉ』<br />『わぁ～！ありがとうお爺ちゃん！大好き～！！』私はぼんやりと話を聞いている弟達を叱った。『ホラ！琥珀、黒曜もちゃんとお爺ちゃんにお礼言いなさい！』<br />『『おじいちゃん、ありがとう！』』<br />『どういたしまいて。みんなええ子じゃなもぉ。ふぉふぉふふ』<br /><br />「あそこ、あのお爺ちゃんの土地、梅の木を残したまま、地元の人に開放する公園にして欲しいの」私はぎゅと手を握りパパの顔を見た。「パパお願いだから. . . 」<br />「馬鹿やろう！！お前は甘ったれた大馬鹿だ！！」みるみる顔は真っ赤になり、怒りで私をさす指が震えていた。「今年中に手続き済ませるからな！直ぐ登記簿、本社に持ってこい！解ったな留璃子！！」<br />パパ反論を許さじと勢い良く席を立つと、怒りに任せ社長室の扉を叩き付けた。<br /><br />パパの背を見送った私はやるせない気持ちで体の力が抜けてしまった。<br /><br />パパ。パパは子供たちに遊び場を残してやると笑ったお爺ちゃんと、いつの間にか同じ年頃になったんだね。パパ。これ以上稼いでパパは何をしたいの？<br />私知ってるんだよ。<br />パパは寝たきりになったお爺ちゃんの畑を潰しちゃったこと。<br />お爺ちゃんの畑はいつの間にかママの空き地になったこと。<br />その空き地にパパのビルが建ったこと。<br />本社のビルがある場所、ここ昔小さな祠にお地蔵さんが居たんだよ？<br />パパ。<br />私、ママと一緒に赤ちゃんだった黒曜が夜泣きませんようにって、お地蔵さんによだれかけを掛けてあげたんだよ。<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><span style="font-size: 80%">拍手やコメント頂けたらものスゴクものスゴク嬉しいです！！！</span> ]]>
</content:encoded>
<dc:subject>連載小説</dc:subject>
<dc:date>2008-03-14T09:03:44+09:00</dc:date>
<dc:creator>kyorori</dc:creator>
<dc:publisher>FC2-BLOG</dc:publisher>
</item>
<item rdf:about="http://kyororinovel.blog31.fc2.com/blog-entry-93.html">
<link>http://kyororinovel.blog31.fc2.com/blog-entry-93.html</link>
<title>シーン6-7 &quot;グラスオブハウス&quot;</title>
<description> ＊警告＊このブログには自殺、流血、薬物、飲酒、精神病治療のシーンが含まれます。自己の責任で対処できる方、小説と現実の区別がつく方のみ閲覧して下さい紗香さんに電話をしようとして何度も躊躇う。私はこの義妹が好きだった。一人っ子らしいちょっと我がままな部分も、ポンと口をついては飛び出す余計な一言も、彼女の素直さの現れだと好感を持っていた。「瑠璃？どうしたの？」祐輔は私の顔を不思議そうに見ていた。私は手に
 </description>
<content:encoded>
<![CDATA[ <font color="red"><br />＊警告＊このブログには自殺、流血、薬物、飲酒、精神病治療のシーンが含まれます。自己の責任で対処できる方、小説と現実の区別がつく方のみ閲覧して下さい</font><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br />紗香さんに電話をしようとして何度も躊躇う。<br /><br />私はこの義妹が好きだった。一人っ子らしいちょっと我がままな部分も、ポンと口をついては飛び出す余計な一言も、彼女の素直さの現れだと好感を持っていた。<br /><br />「瑠璃？どうしたの？」<br />祐輔は私の顔を不思議そうに見ていた。<br />私は手に持った受話器をいつの間にかもて遊んでいたらしい。<br />「あ？. . . ああ. . . 」<br />「どっか電話するの？」祐輔は掛け時計を見上げると言った。「もう十時になるよ？あんまり遅くない方が良くない？」<br />「あ、ありがとう。祐輔」<br /><br />私たちはノートパソコンでネット検索をかけ、ケアンズの情報を集めているところだった。リビングのソファーに並び祐輔はビールを、私はガス入りのエビアンをそれぞれ飲んでいた。今日は金曜日、マンションの最上階であるこの部屋まで週末の街のさざめきが伝わって来る。<br /><br />「. . . 紗香さん、まいってるらしくて。小父さんも困ってるんだって。だから、電話しなきゃと思ったんだけど. . . 」<br />「黒曜君が家に帰らないこと？」<br />「うん. . . 」私は祐輔から目を逸らした。<br />「瑠璃が電話しても、どうしようも無いことだろ？」<br />「. . . だけど、黒曜が悪いんだし. . . 黒曜が紗香さんや子供達を苦しめてるんだもの. . . 」それに誰かが謝らないと、と付け加えた声は小さくなってしまった。<br />「瑠璃が謝ることじゃないだろ？謝るなら黒曜君だろ？」祐輔はパソの電源を落とした。「それに瑠璃、電話なんてしたらまた落ち込むんじゃない？瑠璃は今さ、自分のことだけ考えてれば良いんだよ」<br />「. . . でも」<br />「余計なこと考えると、瑠璃また寝れなくなっちゃうだろ？」<br />. . . . . . 余計なこと？<br /><br />キッチンからは食洗機が回る音が聞こえる。今夜は豚の生姜焼きと、海藻のサラダ、具沢山のみそ汁のメニューだった。理想の一汁三菜には物足りないけれど、祐輔は美味しい美味しいと喜んで食べてくれ、私自身もちゃんと食事を作れたことに満足感を覚えていた。<br /><br />「じゃ、祐輔はマイちゃんや、マヤちゃん、マオちゃんのこと放っとけって言うの？マオちゃんはまだ赤ちゃんなんだよ！」私は冷静さをは失いつつあった。<br />「瑠璃？」<br />「だって、誰かが助けないと！子供達だけで、あんなに小さい子ばかりで！」<br />「瑠璃？落ち着いて？」<br />両肩をそっと掴んだ祐輔の手を振り払うと、私はサっと背中を向けた。泣いているのを祐輔に見られたくなかった。<br /><br />. . . 涙を流すのはひさしぶりだった。<br /><br /><br /><br /><br />「金剛は四人姉弟の末っ子なんです。私と年が九つも離れてるんですよ。感受性が豊かな子で、頭も良く進学校には入ったんです」私は当時を思い出しながら話をした。<br />白衣を着た多岐川先生はゆっくり頷いた。<br />臨床心理室はいつものように程よい空調が効き、外来の喧噪から離れ静かだった。<br /><br />「高校をサボって呼び出された時も、私フレックスを使って仕事の合間に学校まで行きました。先生達はポカンとしてましたっけ」<br />その時の担任と指導教師の顔は面白かった。マイクロミニのスカートスーツに、波打つ金髪、派手な化粧とネイルをして現れた私に、教師達は呆気にとられしばらく言葉を発することが出来なかった。<br />「ご両親は？弟さんの高校に行かれなかったんですか？」多岐川先生は静かに訊ねた。<br />「ええ。連絡先が私の携帯番号になっていましたから」<br />車で帰ろうと金剛を連れて行った駐車場まで、男の子達が集まって来たんだっけ？後からコンに目立ち過ぎって文句言われたんだった。思い出すと口元がほころぶ。<br />「学校には何度も足を運びましたが、弟は家を飛び出し帰って来なくなって。そのまま<a href="http://blog.fc2.com/tag/%C2%E0%B3%D8" class="tagword">退学</a>してしまいした」その金剛が自力で高卒認定を受けたのだ。私は姉として誇らしく思う。<br />「ご両親はなんと？」多岐川先生は静かに質問した。<br />「え？親ですか？もちろん怒ってました. . . 頭の良い子なのに、高校も卒業させなかったんですから。. . . 当たり前ですよね」<br />「当たり前ですか？」<br />「はい」<br />「姉である椙山さんに保護者としての責任を負わせるのが、当たり前だと思うんですか？」<br />多岐川先生は口を閉ざして、こちらをじっと見つめた。<br /><br /><br /><br />『あんたが保護者としての責任を取れるって言うのか！！』<br /><br />雨の日だ。<br />土砂降りの雨で、車から降りる一瞬でびしょ濡れになるひどい天気だった。廊下でパンプスの足元を滑らせそうになり、私は慌てて壁に手をついた。<br />視線を感じ顔を上げると、長椅子に腰掛けた金剛と目が合う。<br />『コン！』<br />. . . ああ良かった。金剛はちゃんと乾いた服を着ていた。<br />私の呼びかけに答えず金剛は顔を隠すように俯いてしまった。<br />『お宅は？』代わりに制服の警官が振り返る。<br />『高倉金剛の姉です。連絡を頂き迎えに参りました』頭を下げた。<br />仕事で客先に出ていた私は、携帯に着信があったことに気がつかずそのまま帰宅してしまった。そのせいで金剛を迎えにくるのが遅くなった。もう時刻は夜中をというより朝に近かった。<br />『お姉さん？親は？親居るんだろ？』私の挨拶に制服の警官はしかめっ面をした。<br />『はい。父は出張中で連絡が取れず、母は病気で伏せっております』私は中学生の頃から言い慣れたセリフを口にした。<br />『あんた年は？』警官は私をジロリと睨みつけた。<br />『二十五です』<br />『で、あんたまだ十六才の弟さんの保護者やれるの、お姉さん？無理だね！そんなんだから子供が駄目になるんだよ！』<br />もう一人合流した私服の警官も加わり取り出した書類の罪状を読み上げていく。『窃盗』『深夜徘徊』『飲酒』『喫煙』『無免許』<br />一メートルと離れていない場所に座っていた金剛の肩がピクンピクンと揺れた。<br />『子供が警官に<a href="http://blog.fc2.com/tag/%CA%E4%C6%B3" class="tagword">補導</a>されて迎えにもこないような親だから、こんな良い高校通ってて<a href="http://blog.fc2.com/tag/%CA%E4%C6%B3" class="tagword">補導</a>されるような子供になっちゃうんだ！解る、お姉さん？』恰幅の良い警官は、項垂れている金剛の制服の胸をトンっと指差すとことさら大きな声を出した。<br />『それでも、あんたが保護者としての責任を取れるって言うのか！！』<br /><br /><br /><br /><br />祐輔と言い合いをした日から、私はもやもやと心落ち着かぬ気分が続いた。私が一方的に感情を高ぶらせただけで、祐輔は全くこだわっていなかった。<br />結局、紗香さんの実家を訪ねるどころか電話すらしてない。パパからの電話にも居留守を使ってしまった。<br /><br />私は考えあぐねて琥珀に電話をした。紗香さんと姪達にしてやれることはないかと？知恵の回る弟に相談を持ちかけた。<br /><br />『ねぇよ』<br />一言が返って来た。<br />だけどと言い募る私に『じゃあな、愛人宅に入り浸ってる父親がたま～に帰って来ちゃあ母親と大喧嘩って家で、マイやマヤが幸せに育つって思ってるのかよ？』<br />私はぐうの音も出なかった。<br />パパの暴力で血を流したママの姿を思い出す。琥珀らしい皮肉な表現だけれど、反論出来る訳がなかった。<br />『それより留璃子ネエ、親父にあんまり関わるな』<br />『だけど琥珀、パパは今一人暮らしだし、黒曜だけに負担を掛けることに. . . 』<br />『アイツは大丈夫だ。黒曜の奴はああ見えて切り替えが早ぇんだよ。右から左ってやつだ。けど、留璃子ネエは振り回されちまうだろ？今は自分のと祐輔君のことだけ考えてろ？良いな？』<br />『. . . 祐輔. . . 』<br />『そーだ。自分を大切にしないってことは、祐輔君を大切にしてねぇってことだぞ。そこんとこ解れよ？』<br />祐輔。ずっと支えてくれた、側に居てくれた、涙を拭いてくれた。<br />『. . . うん、解った。琥珀、ありがとう』<br />『旅行楽しんでこいよ』<br /><br />解ってる。<br />琥珀の言う事も、多岐川先生の指摘も、祐輔の心配も、頭では理解していた。だけど心が付いていかない。<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><span style="font-size: 80%">拍手やコメント頂けたらものスゴクものスゴク嬉しいです！！！</span> ]]>
</content:encoded>
<dc:subject>連載小説</dc:subject>
<dc:date>2008-03-13T16:58:58+09:00</dc:date>
<dc:creator>kyorori</dc:creator>
<dc:publisher>FC2-BLOG</dc:publisher>
</item>
<item rdf:about="http://kyororinovel.blog31.fc2.com/blog-entry-92.html">
<link>http://kyororinovel.blog31.fc2.com/blog-entry-92.html</link>
<title>シーン6-6 &quot;グラスオブハウス&quot;</title>
<description> ＊警告＊このブログには自殺、流血、薬物、飲酒、精神病治療のシーンが含まれます。自己の責任で対処できる方、小説と現実の区別がつく方のみ閲覧して下さいあれ以来、パパからの呼び出しが多い。あれとは、会社に国税庁の査察が入ったことだ。パパは用事がなければ自分から連絡を取ってこない。それぞれ家を出た私達の住処を訪れるなど稀だった。私達の新居祝いに祐輔の両親と共に招待したけれど、パパは来てくれなかった。事務員
 </description>
<content:encoded>
<![CDATA[ <font color="red"><br />＊警告＊このブログには自殺、流血、薬物、飲酒、精神病治療のシーンが含まれます。自己の責任で対処できる方、小説と現実の区別がつく方のみ閲覧して下さい</font><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br />あれ以来、パパからの呼び出しが多い。<br />あれとは、会社に国税庁の査察が入ったことだ。<br /><br />パパは用事がなければ自分から連絡を取ってこない。それぞれ家を出た私達の住処を訪れるなど稀だった。私達の新居祝いに祐輔の両親と共に招待したけれど、パパは来てくれなかった。事務員の手配による立派な胡蝶蘭が届いたのみだった。だから黒曜と一緒にタヤマ病院に見舞いに訪れたはとても驚いた。他の人に迷惑を掛けて申し訳ないと思いながらも、私は嬉しかった。<br /><br />自分の用件があれば時と場合を考えずに人を呼びつけ、パパの呼びかけに応じなければドカドカと押し掛けて来た。良くてもお小言、悪いときは面倒をやらせるため。<br /><br />. . . もう一つパパが私を呼び出す理由、それは人寂しい気分だ。<br /><br />私達は名古屋の老舗百貨店である松坂屋で待ち合わせた。<br />「あのクソ女！刺しやがって！！」パパは思い出すと怒りをぶりかえらせ目を吊り上げた。「恩を仇で返しやがって！俺はなぁ、マルサの奴らの情報があんまり正確なんでおかしいと思ってたんだ！！叩きだしたぐらいじゃ気が済まん！クズ女がぁ！！」<br />私を相手にパパは捲し立てている。<br />パパの悪態は蒲生という名の女性に向かっていた。査察の最終日に挑戦的な態度で私を呼び止めた人だ。本来は五年置き程度でやって来る査察が繰り上げになり、痛い所を的確付かれたのは彼女が国税局に電話をしたためだ。つまりパパは自分の愛人に告発（さされ）たのだった。本社でパパの秘書的な業務についていた蒲生という女は、愛人の立場を隠すところかひけらかし、倉建設の社長である黒曜にまで高圧的な態度をとったらしい。疎ましく思った黒曜は女を左遷した。パパに訴えたところで、会社の利益にならないことなんて無視されるに決まっている。驕っていた愛人は逆恨みでパパと親族会社を告発したのだ。<br /><br />で、パパはあっさり女を追い出した。<br /><br /><br />「パパ落ち着いて。で、話はついたの？」<br />興奮したパパの声は段々高くなっていく。高級中華店でゆったりとした昼食を取る人々が何事と？こちらをチラチラ伺っていた。<br />「. . . ああ、五千あたりだ。チッ！」忌々しげに舌打ちする。<br />「重課税、付かなかったんだ？」<br />「ああ、うちの先生は優秀だからな」パパはタバコを揉み消すと、新たに火を着けた。「まあ、落としどころだろうなぁ？最初は、億持ってかれると思ったぞ」<br />「相手、選びなさいよ～パパ」<br />. . . そういうのを日本語で自業自得って言うのよね？<br />「は！アイツは性悪だったんだ！猫被りやがって」<br /><br />新たに運ばれて来たコース料理をパパの皿に取り分けてやる。アワビの蒸し煮は美味しそうな湯気を立てていたけれど、私はさっぱり食欲を感じなかった。<br /><br />パパは受け取った料理を口に運ぶと、ふと思い出したように箸をトンと置いた。<br />「おい留璃子。琥珀の奴はどういうつもりだ？せっかくバカ高い学費出して医者にしてやったのに尾大病院辞めやがって？俺はてっきり海外の大病院にでも行くつもりで辞めたと思ってたのによお？開業するでもねぇで、未だにチンケな請け負い仕事しやがって」<br />パパの話はご自慢の長男に移った。<br />『目から鼻に抜ける』って表現がビッタリの私のすぐ下の弟を、パパはずっと自慢にして来た。中学しか出ていないパパは自分の才覚だけでのし上がったのだといつも話していた。琥珀はその自分にとても似ていると言う。<br />. . . 半ば自画自賛じゃない？<br />だから自分の跡を継がせるつもりだった琥珀が医大に進学した時もパパの怒りは一瞬だった。直ぐに周囲への自慢に変わったのだ。次男の黒曜が会社を継ぎ、三男の金剛が弁護士か公認会計士になりサポートすれば良いさと言った。<br /><br />「パパ。医師の仕事に優劣なんて無いでしょ？そんな言い方止めてよ」私は無駄と知りながらもパパに訴えた。<br />「馬鹿か？お前は？！大体なぁ、医大選ぶ段からおかしかったんだよ？なんで尾大だ？東大じゃねえんだ？あいつの頭なら入れたんだ！それをあの馬鹿が！」やはり私の言葉は全く耳に入っていない。<br />「パパ、それは琥珀が決めることだよ」<br />琥珀が人の思い通りに動くわけがないことくらい、パパにも解ってるだろう。何事にも強引なパパでさえ、いつも琥珀には上手くあしらわれているのに。<br />たしかにある意味この二人は似ていた。パパがカリスマで人を動かす経営者ならば、琥珀は権謀術数で組織そのものに影響を与えるタイプだと私の中では区分していた。<br /><br />パパの口調は次第に愚痴っぽくなってきた。<br />「まあ、尾大なら地元では一番だしよぉ、我慢してやるさ？教授様にでもなれりゃあな？俺だって親だ、息子が出世コースに乗れるようにって常葉カントリーまで買ってやったんだぞ？それをよう琥珀の奴」<br />この辺りでは名門中の名門であるゴルフコースの名を挙げた。このご時世でも常葉のメンバー希望者は後を絶たないそうで、投資と琥珀の将来を考えて四年越しで購入したのだと言う。<br />「パパったらどっかのドラマじゃあるまいし、琥珀だったら上司の接待なんて必要ないよ」<br />「女には解らん」吐き捨てるように言う。<br /><br /><br />長居してしまった桂花苑を後にした私達は、催事場で行われている時計宝飾店に向かった。外商さんとの付き合いでたまに顔を出す私と違い、パパはディナーショウや高級温泉での催事にもちょくちょく参加するらしい。<br /><br />満面の笑みを浮かべる外商さんに迎えられ、私たちは広い会場をグルリと回った。各ブースに立つ係員と外商係を合わせると客の数を遥かに上回るだろう。私たちの一行も、いつの間にか外商さんと時計や宝石売り場の責任者まで、ゾロゾロと引き連れた大名行列になってしまった。<br />フェンディの粋な縞柄のジャッケットに紫のシルクシャツと紫紺のパンツの組み合わせは、大柄で押し出しの良いパパに似合っていた。昼間見るには少し派手だけれど、取り巻きを連れた姿は様になっている。<br />そちらの相手はパパに任せ、はぐれることは無いだろうと私は側を離れた。<br />私はマックスマラーの麻素材の若草色のリゾートカジュアル風ロングワンピースに、エルメスオレンジのピコタンを持っていた。鮮やかな補色コーディネートだ。フェラガモのウェッジソールは11センチあり、現在のトータル身長は170センチ。お互いに嫌でも目につくだろう。<br /><br />カルチェやダミアーニ、普段お目にかかれないハリー・ウィンストン、ブレゲ等のブースを、私は誰にも邪魔されずに楽しんで回った。<br /><br />ダイバーズウォッチしか持っていない祐輔に、スーツに合うちょっと洒落た時計を買ってあげようかと考えているとパパに呼ばれた。<br />「留璃子。どうだ、コレ？」<br />ブルーのビロード敷きのトレイにこれでもかとダイヤの散らばった腕時計があった。<br />「う～ん？パパ、似たようなの持ってない？」<br />「お嬢様、こちらはハリー・ウィンストンでございまして、手前どもで高倉社長にご案内させて頂くのは初めてでございます」素早く愛想良く時計担当者は説明した。<br />「そうですか. . . 」ゼロが一個多いはず、絶対一個多いよね？<br />「留璃子。そう言えばお前、誕生日どうした？何か買ってやろうか？」<br />「いいよ、パパ」今は８月で私の誕生日は12月だよ、パパ？<br />私が首を振るのと同時に外商さんが素早く言った。「それは、おめでとうございます！お嬢様！！」<br /><br />. . . . . . 三十五にもなってお嬢様って言われるの、誕生日を間違えられるより嫌. . . ？<br /><br />腕時計はいくつか持っているから要らないと言ったのに、何故だかご機嫌の良くなったパパと外商さんに押し切られるようにして、ブルガリのアショーマを買ってもらった。ユニセックスなメンズ時計なので、祐輔と兼用できるだろう. . . 似合うかどうかは微妙だけれど。<br />パパは最初に勧められたハリー・ウィンストンを購入した。腕時計2つで中古マンション程の値段。それを信用だけで買えちゃうなんて、考えて見れば凄いことなんだろうな～？<br /><br />. . . パパの車とこの時計、どちらが高いのだろう？以前、弟達にからかわれたのを思い出す。車？う～ん、やっぱ時計？<br /><br />巨大な地下駐車場の出入り口に着くと駐車券を自動機で清算する。<br />最近めまいが起こらないので、私は前のように車を運転するようになった。黒塗りのベンツは外見はともかく、乗り心地はとても良かった。<br />「パパ。今日は時計、ありがとうね！夕食、お肉ばっかりにしないで和食も食べてよ？」私は別れ際の挨拶をした。l<br />「あ、そうだ留璃子」パパは呼び止める。<br />「ん？何？」<br />「お前、紗香の奴と話したんだろ？ちゃんと納得させろ」<br />「何とかって. . . 夫婦の間なんて本人同士じゃないきゃ解決しないよ。黒曜は紗香さんと話す気が無いって言うし」私は運転用の薄い色の付いたUVカットサングラスをバッグから取り出す。「私が話をしても意味ないと思うよ？」<br />. . . 帰り際にこんな話持ち出されても. . . 。<br />「ふん。専務が煩ぇんだよ。うちの娘が哀れだの、せっかく生まれた孫が父親に抱いてもらえず不憫だの、グチグチ朝から言われる俺の身にもなってみろ？あ？」<br />不憫なのは俺だぞとふんぞり返った。<br />同い年の黒曜と紗香さんはいわゆる職場結婚だった。短大卒の紗香さんは、大学卒業後にパパの会社に入った黒曜の先輩にあたる。二人はつき合い始めると当然のように婚約し、結婚した。<br />「渡辺の小父さん専務になったの？」<br />「ああ。高倉建設に外戚を置いておくのは重要だからな？渡辺は親馬鹿だけど仕事は出来るし業界に顔も広いからな。渡辺に仕事サボられると俺が困るんだよ！留璃子、お前一度渡辺専務の家行ってこい。紗香にグズグズ言わせねぇように、ちゃんと言い聞かせてこいよ？」<br />古くからの補佐であり今や親戚である渡辺さんを、パパは重用しているらしい。<br />「. . . . . . 」<br />私が渋っているのを見て取ると、パパは付け加えた。<br />「マヤとマオも留璃子お姉ちゃんに会いたいって言ってるらしいぞ？」<br />「. . . . . . 解った. . . 」<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><span style="font-size: 80%">拍手やコメント頂けたらものスゴクものスゴク嬉しいです！！！</span> ]]>
</content:encoded>
<dc:subject>連載小説</dc:subject>
<dc:date>2008-03-12T14:57:46+09:00</dc:date>
<dc:creator>kyorori</dc:creator>
<dc:publisher>FC2-BLOG</dc:publisher>
</item>
</rdf:RDF>